物語の世界は積み重ねで深まっていく - 2014.10.02 Thu
僕は年長の5歳くらいでアーノルド・ローベルの『ふたりはともだち』などの作品が楽しめる子供に育てることをひとつの目標にしています。
(ローベルにはたくさんの作品がありますから、それ以前の年齢でも楽しめるものもあります)
ローベルのお話の特徴は、「おもしろい」というよりも、「味わいがある」と感じるようなものが多いと僕は思います。
例えば、明確な「落ち」の無いお話というものも多いのです。
普通お話は、「落ち」でおもしろく感じさせたり、語感やストーリーで「おもしろみ」に変換してしまうことが一般的ですが、ローベルは必ずしもそうではありません。
言葉として明確に表していないものを、絵の雰囲気やその世界観に触れることでじんわりとつたえてくれるのです。
また、文章で直接触れてはいない、登場人物たちの心情を自然に読者に伝えてきます。
こういった味わいがまさに物語の本質であるような気もします。
しかし、こういうものは「5歳になったから」「6歳になったから」といって必ず伝わるというわけではありません。
人の心への理解や、感性、想像力といったものがつちかわれてきてはじめてそれらの年齢で物語を深く楽しめるようになります。
それが育ってきた子供に読んであげると、なにかおもしろがらせる部分ではないのに、きちんとそういう場面では笑ったり、ほほえんだり、物語に引き込まれる表情などを示します。
それがそうでない子には、そこにはなにも感じることがなく「飽き」を示しだしてしまいます。
子供によりお話の好みもありますし、物語自体を好まない個性の子もいますから、興味を示さないからといってそれがよくないということではありませんが、「感性をつちかってきたけど、それが好みでない」というのと、最初から「なにも積み重ねてこずに興味を覚えられない」というのではまったく違う話です。
ましてや強い刺激に慣れきってしまった子には、なかなか物語に没入して楽しめる感覚を与えることができません。そういう子は刺激と興奮でないと惹きつけられなく育ってしまいます。
前回のところで述べたように、大人が子供に与えるものに無頓着でいてはその感性をつちかってあげることは簡単ではありません。
メディアが演出するような、派手さや刺激、子供の持っていない大人の世界のものを示してそこに気を惹きつけるような方法で子供の感性を作ってしまえば、アーノルド・ローベルが示すような物語を受け入れることは難しくなってしまいます。
子供が喜ぶからと、小さいうちから戦いをドラマとして提供するような手法も僕は好ましいこととはどうしても思えません。
それらはあとからでもいくらでも楽しめるようになります。
しかし、逆は難しいのです。
だからこそ、小さい子供へあたえる文化というのは大人がしっかりと見据えていくべきだと思います。
物語というのは、その本やお話だけで完結するものでもありません。
読んでくれる人とのつながりや、その場の雰囲気、それにともなう思い出、その物語のなかで起こることと自分の経験の重ね合わせ、そのようなさまざまなことが物語のおもしろみとなって子供のなかには形作られます。
『相談 寝転がるばかりで一人で遊べない(2歳) ー遊びの原動力ー』
この記事で書いたような、原体験が再現されることでのおもしろみ、充実感といったものもあります。
ただ「子供が喜ぶから」ということだけで子供に与えるものを選んでいたら、それは「子供だまし」になってしまいます。
ヒーローものの関連グッズなどを手に入れるために、大人が並んで買いに走ったり、品薄になってオークションで高値がつくなどといったニュースもしばしば耳にします。
そういうのを聞くと、「子供だまし」に乗っかっている大人は、実は気づかないうちに術中にはまって「大人だまし」にあってしまっているのではないかという気もします。
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● COMMENT ●
絵本について
音楽について
今月で1歳になる息子の子育ては後追いまっさかりで大変ですが、ブログの関わり方を参考に、笑いのある時間をたくさん過ごすことができています
最近になって、息子は音楽に合わせて身体を動かしたり歌ったりするようになりました
うちはテレビがなく基本無音の環境で子育てをしていることもあり、仕掛け時計の音や、洗濯機の終了のお知らせ音にも楽しそうに反応します。なので、最近は私がたまに子ども向けの音楽をyoutubeから拾って聴かせています
私が童謡や歌謡曲を歌ってあげても楽しそうにしてます
楽しそうにしているので、特に問題はないのですが、音楽についてオススメなどありましたら、教えていただけたらなと思います
No title
まさにその記事を読んで、「ふたりはともだち」のなかの
「おてがみ」が子供の頃大好きだったことを思い出したのでした。
(教科書に載っていました)
そして、思い出したついでに調べてみたら、
本の説明に「3歳から」とあったので当時3歳の長女に買いました。
届いてみると、「絵本」というより「挿絵入りの本」という感じだったので
「読めない(聴いていられない)かな?」と思ったのですが、
きちんと集中して聞いていました。
今でもお気に入りの一冊です。
>「おもしろい」というよりも、「味わいがある」と感じる
そうですね、子供の頃の私にははっきり言葉にはできませんでしたが、
物語に漂うなんとも言えない「幸福感」が好きだったのだと今では思います。
絵本に限りませんが、「子供だまし」のもので、子供は喜びますよね。
それだけでは・・・と「大人の鑑賞に耐えうるもの」(というと大げさですが、
何度読み聞かせても大人が飽きないもの、というレベル)を
選びたいと思うのですが、そのせいで「月齢に合わないもの」を与えてしまって、
かえって「子供だまし」のものに負けてしまうという失敗を何度かしてきました^^;
それでも本の世界が確実に心のなかに育まれてきている4歳の娘を見ると
諦めずに「子供も楽しんで何度も読んで欲しがる」「大人も何度読んでもじんわり感動できる」ものを何とかすりあわせてこられて
良かったなと思います。
そして探せば、「子どもの文化」を尊重しようとしている人たちは
今も昔も確実にいるのだということにホッとします。
叱られるとうつ向いてしまう息子について
いつも楽しみにしています。
大変お忙しいことと思いますが、おとーちゃんさんに相談させてください。
私は専業主婦でもうすぐ1歳6ヶ月になる息子を育てています。毎日絵本を読んだり、おもちゃで遊んだり、買い物や散歩をして楽しく穏やかに過ごしています。
息子は生まれたときから本当に手のかからない子で、よく食べ、よく眠り、よく笑い、いつも機嫌がよく、優しく穏やかな性格です。もちろん、ぐずったり泣くこともありますが、すぐに気持ちを切り替えられるようです。一方、幾分慎重なところがあり、初めの一歩がなかなか踏み出せないところがありますが、踏み出してしまえば、大丈夫というようなタイプです。人見知りもほとんどなかったように思います。また、空気が読めるとでもいうのでしょうか、聞き分けもよく、そもそも親の困ることや危ないこともめったにしません。してほしくないことも言葉で伝えれば理解してくれます。
最近では自己主張も出てきたり、なんでも自分でやってみようとしたり、進んでお手伝いらしきこともしてくれます。まだミルクを飲みたがったり、オムツが取れそうな気配はないですし、言葉も喃語程度しか話さず、幼いところもありますが、息子のペースで成長してくれているようです。
私はというと、普段は大雑把でさっぱりとした性格ですが、感情的でワガママ(笑)、気持ちの切り替えも下手なところがあります。ただ、息子のおかげで、そんな私でも普段穏やかに息子を可愛がり、受容を中心とした関わりができているのだと思います。もともと親を困らせることがないため、過保護・過干渉になることもありませんでした。
しかし、私自身がとても疲れているときやイライラしているときは、本来の感情的な性格もあり、息子を叱るときに普段なら言葉で丁寧に伝えれば済むことを、大きな声で怒ってしまうことがあります。
時々とはいえ、このことが影響しているのでしょうか?3ヶ月程前から、大きな声で怒ってしまうときはもちろん、普通に言葉で注意するときもそうですが、困ったように頭をポリポリし、うつ向きになり、目をこすり泣き真似のようなそぶりをするようになってしまいました。ここ1ヶ月はさらに完全に顔を床につけ、拗ねたようなポーズをします。もちろんしばらくすると自分で顔を上げ、目を見て話を聞いてくれ、その後は笑顔が戻りますが。
これまでしてほしくないことは、一貫して毅然と言葉で伝えてきたのですが、やり過ぎだったのでしょうか?非常に聞き分けがいいことや息子が私に対して優しさを持って接してくれていると感じることが多々ありますので、実は親の顔色を伺っているのではないか、気を遣っているのではないか、また怒られても少し泣く程度なので気持ちを抑えこんでいるのではないかと心配です。
これまで特に心配事や困ったことがなかったため、このことが気になって仕方ないです。いろいろなお子さんを見てこられたおとーちゃんさんのご意見をぜひお伺いしたいです。ちなみにブログは1歳頃知り、そこからは受容など意識するようになりましたが、それ以前はたまたまそのような育児をしていたという感じです。
長くなってしまい、申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。
本の出版も楽しみにしています。
感性
感性か〜と考えながらこの記事を読みました。
娘は2才4ヶ月ですが、最近やっと絵本に興味を示すようになりました。
どうにもじっとしているのを好まず、絵本はもう諦めてました(笑)
なので「おすすめ絵本」の過去記事を読み返している最中です。
いつか本の中を冒険出来るような子に育ってくれるといいな、と思います。
子供に与える文化は本当に見直した方がいいですよね。
さすがに最近のおもちゃやテレビの内容、また小さな子がスマホなどをいじっている姿には違和感を感じます。
小学生が公園でそれぞれがゲーム機を持って遊んでいるのにも…
感性って伝える側の感性も関係するだろうからなんか難しいですね。
我が子には、自分や相手を思いやる心を育ててあげたいな、と思います。
家事のアドバイスありがとうございました。
娘はまた一段と家事を楽しんでおります(笑)
物語の味わい
いつも興味深くブログ拝見させてもらっています。
今回はアーノルド•ローベルさんということで、初書き込みです。
きっかけは保育園の年少クラスにあがった時、自分の持ち物はかえるさんの印の所に置くんだ♪と楽しそうに自分のマークを指差している息子をみてカエルの出てくる絵本を探してみようかと手に取った事でした。ほんのりとあたたかい絵柄、やわらかい言葉でつづられる日常がたりに4歳の息子も私も引きつけられ、以来今日の絵本はこれ!と何度も差し出される我が家のベストセラーシリーズになりましたが、うかつにも何処に惹かれるのだろう?とあんまり考える事がありませんでした・・・落ちがない、そうですね。言われてみれば読み終わった後の息子は「この続きはじぶんで考えて、ってこと?」としばしば言っていて、なるほどそういう風に思うのか〜と子どもなりに考えたつづきの物語を聞かせてもらう事が楽しかったのですが、そういった想像が広げられる余韻が残るのが心地よいのかもしれませんね。
ありがとうございます
*返信不要です。
今、子どもが通う小学校の低学年の読み聞かせのボランティアをしています。
どの本で読み聞かせを行えばよいのか、毎回迷っています。
今回のかえるの本のご紹介ありがとうございました。
早速、図書館で借りてきて読んでみました。
仰る通り、地味な本ですが、味わいがあると思いました。
小学校低学年での読み聞かせに使用してみようと思います。
しかし、仰るように、
刺激に慣れ親しんでいる子には退屈になってしまうのだろうか?
という不安もあります。
これからも、良質な本をご紹介頂けると幸いです。
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いつもブログを拝見させて頂いています。
とても勉強になり、このブログに出会えて嬉しく思っております。
お忙しいところ申し訳ないのですが、アーノルドノーベルさんの絵本で、1歳5ヵ月の男の子が楽しめるものは有るのでしょうか。
教えて頂けますと助かります。
宜しくお願い申し上げます。