本人達が忘れてしまっている小さい頃のエピソードを話してあげると恥ずかしいけどうれしそうに聞いていました。
その子たちは僕が初めて持った乳児(3歳未満児)であり、初めて卒園させた子供達でもあるのでとても思い入れがあります。
4年間連続で担任できたのもとても幸運でした。
しかし、僕自身まだまだ未熟だったので今思えばうまく出来ないこともたくさんあり、いまならもっと良い関わりをしてあげられたのにとその子たちには申し訳なく思う気持ちもあります。
2歳クラスで苦労したのは「噛み付き」の問題でした。
その2歳クラスに新入園で入ってきた女の子がいました。
2月生まれで月齢が低くとても幼い子でした。
新入園説明会でその子もいたのですが、僕はてっきり入園する子の妹かなんかの1歳児なのかと思ったくらいです。
その子が入園後たびたび他児に噛み付きがでるようになりました。
登園は早番の時間で8時前後、迎えはおばあちゃんに協力してもらっていて4時過ぎと保育時間は短いほうでした。
でも、ほぼ毎日噛み付き行為がでるのです。
遊べるように遊びを教えて相手をしたり、たくさん可愛がって安心して過ごせるようになどして、それでも噛み付きがいつ出るかわからないので、こちらも絶えず緊張してみているので毎日午睡の時間になる頃にはもうぐったりでした。(笑)
しかしそれでも他の子のところにいったり、ほんのちょっとした一瞬で噛み付きって出てしまうのですよね。
なんとか噛み付きがなくなるよう試行錯誤するのですが、初めての乳児でもあり経験がないのであまりうまくいきませんでした。
同僚の保育士はベテランでしたが、昔式のきちんと叱る、しつけるタイプの保育だったので、今思えばその子には逆効果になっていたようです。
家庭では家族やおじいちゃんおばあちゃんにとても可愛がられていて、満たされていないというタイプではありませんでした。
だから「なぜ、この子は噛み付きがでるのだろう?」と原因がわからないでいました。
いまならば、なぜかわかります。
ひとつにはまだ心が幼く環境に適応できなかったということです。
それまで集団の経験もなく、家庭でとても可愛がられ(ある意味甘やかされ)ていたので、他児との集団生活・大勢いる見知らぬ大人(職員など)といった環境に対する不安で、噛み付き行為がでてしまっていたということ。
そしてもうひとつは、「入れ物」が大きいタイプの子であったということです。
家庭でも可愛がられ、おじいちゃんおばあちゃんにも可愛がられ、保育園でもほかの子に較べてすらはるかにたくさんの関わりをもらっているのに(手がかかる?笑)それでも、この子の「入れ物」は満タンにならないほど大きいものであったということです。
「入れ物」は大きいから良い、小さいから悪い、またはその逆といったことはありません。
なぜか人それぞれ違った大きさの「入れ物」を持って産まれてくるというだけのことだと思います。
だからこの子に対しては、きちんと担当保育士(この場合僕でした)とのきずなを深め、安心してすごせるようにしていきながら、暖かい関わりを続けていくことで満たしていってあげれば、時間とともに改善していけたはずです。
しかし、僕も経験が少なく同僚のベテラン保育士がするように、噛み付きに対して叱ったりで対応していたために逆に悪化させ長引かせてしまいました。
たしかに噛まれてしまった子もかわいそうだけど、噛み付きがでるほど不安感をもって過ごしている子供も可愛そうなのですよね。
「大人の理屈」とか「正論」で子供に対応してしまうと、加害者のほうを叱ったりしてしまうわけだけれども、それではよい子育て・よい保育にはならなかったわけです。
いまではいい思い出なのですが、その子の登園拒否事件というのがありました。
クラス担任で打ち合わせをしているときに、その子の噛み付きが問題になり、「いつまでも保育士(僕のこと)に依存するばっかりではダメだから、自立に向かえるように毅然とした態度であなたばかりを相手していられないってことをしっかり伝えなさい」と先輩保育士に僕が指導されました。
その子はなぜか僕に担当が決まる前から、僕のことが気に入ってくれたみたいで、その後もずっと僕にまとわりついていることが多かったからです。
それで、あるときその子に「僕は○○ちゃんだけの先生じゃないから、他の子のお世話もしなきゃいけないんだから、いまは離れていてね」みたいなことを伝えました。
それからしばらくなんとなくいつもの元気がないな~とは思っていたのだけど、ある日お母さんから相談を受けました。
お母さんの話によると、「もう△△先生(僕のこと)は○○の先生じゃないからだめなんだって、もういかない~;;」と家で泣いているとのこと。
さすがにそれを聞いて先輩保育士も含めて話し合いをし、この子には自立を促すよりまずきっちり関係を作ることのほうが重要だということになり、その後関係を深めていくことで、噛みつきの方も終息に向かうのでした。
もともとが家でもたくさん良い関わりをもらっている子だったので、満たされてしまえばその後少しも手のかからない子になりましたよ。
今思うと、4、5歳の頃にはしっかりしていて手がかからないし、自分でなんでも出来るようになっていたので、1日のうちで直接関ることも少なくなってしまい、なんでもっとたくさん関わってあげなかったのかと悔やまれるくらいです。
30人近いクラスで他に手がかかる子が多かったりしたので、やむをえない部分もあるのだけど、まあいいほうに考えれば子供は小さいうちにしっかり向き合って関われば、その後余計な手がかからないということは言えるかな。
卒園してからもほぼ毎年バレエの発表会に呼ばれていったり、小学校の運動会にいったりして成長をみまもってきたけれども、2歳だった子がもう14歳。僕自身なんてほとんどなんにも変らないのに、子供が成長していくスピードの速いこと、なんとも不思議な気分にさせられます。
「入れ物」が大きい子もいれば、逆に小さい子もいます。
ある女の子なのだけど、親はかなり放任気味。
あまり良い関わりをもらっているようには見えないのだけれども、それでもその子は満たされない様子もなく笑顔で過ごせている子だったのです。
むしろその子に噛み付きが多発したとしてもだれも不思議に思わないような環境だったのだけど、その子は何の問題もなくまっすぐ育っていけました。
親の放任を補える人が周囲にいたとしても、それでは足りないのが普通なのですがね。
神さまはちゃんと見ていて、そういう家にそういう性格や入れ物をもった子が生まれるようにしてくれたのかな~?とやっぱり不思議な気分にさせられたエピソードでした。
まあ、こういうケースはまれだと思います。
たいていは放任されて育てばそれはもう、噛みつきまくりキレまくりの「満たされない」子になりますからね。
↓励みになります。よろしかったらお願いします。
