発達上の問題には早めに対処することで、軽くなったり、よい影響を与えられるというものもあります。
また、これまでに見たように、その子にあった個別的な対応ではなく、その子の問題行動に対して叱ったり怒ったりのことをして子供に悪影響を与えてしまうということがあれば、そういうことも早いうちに防いであげたいとも思います。
なかには現実的な問題として、多動や突発的行動があったり、その子の特徴ゆえに怪我をしやすかったりということも場合によってはあります。
そういったときに、人手が確保できなければ安全に預かれないということもあるのです。
そのためにもある程度その子の発達の状況というものがきちんと分かっていなければ、人員をつけてもらうということはできません。そのような点からも診断などの専門的な対応をしてもらうことが必要になってきます。
しかしながら、発達に気になるところがあると思っても、軽々しく親には伝えられません。
ひとつには、発達障がいというものが見えにくいものであること。
専門医に行っても、普段と違う状況になるので、その子の特徴的な様子がまったくでないこともあり、医師からは「なんでもない」と診断されてしまうこともあること。
医師から見て気になる点があっても、年齢が小さければはっきりした診断を下すことを見送られてしまうこともあること。
実際に、明らかな発達障がいの特徴をだしていたとしても、時間の経過とともにそれが薄らいでしまって、「なんでもない」という状況になってしまうこともあること。
このような時に、人によっては保護者と保育士の信頼関係にひびが入ってしまうこともあるので、なかなか言いづらいことです。
場合によってはそれ以前、「お子さんに発達上気になる点があります」と伝えるだけでも、保護者に強いショックを与えてしまったり、不快にさせたり、怒らせたりしてしまうということもあります。
「保育士からうちの子を障がい者扱いされた」と強いクレームが来たということすら耳にします。
ただ、こういう問題の裏には同じ伝えるにしても、その子のためを思ってというよりも、子供やその親に対する「非難」としてそういうことをいう、保育士側にも問題のあるケースというもの残念なことにありますから、一概には言えないのですが、そうではない親身に子供やその家庭のためを思っての行動であってもそういう反応はありますので、つらいところです。
このあたりのことについては「障がいの受容」というまた別の問題にもなっていくのですが、今回の「発達障がい」のテーマとはずれてしまいますので、いつか別の機会に書く事もあるでしょう。
話を「発達障がい」についてに戻します。
保育園ではいま「グレーゾーン」と呼ばれる子供が増えてきています。
「グレーゾーン」とは、診てもらってもなんらかの診断名がでるというほどでもないけれども、かと言って通常の子供の発達段階の範囲にもいない状況を指しています。
僕の知っているある3歳児クラスでは、25名定員のうち10名もグレーゾーンと考えられる子供たちがいたという例があります。
かつてはそんなに多くなかったのに、最近こういうケースが増えているのにはいろんな理由が考えられます。
本当は過去にも同じくらいそういった発達障がい的傾向をもった子供というのはいたはずです。
しかし、目に見える状況で最近増えてくるようになったというのには、いろいろな理由があるはずです。
大きなものとしては、子供をとりまく環境からうまれていた自然発生的な「経験」の不足です。
兄弟や子供同士の仲間関係、生活の中での子供の役割、自然環境の中で五感をフルに使って遊んだり、身体を使って遊んだり、泥や砂、水、木などに触れたりするなどなどの経験が、かつてよりも現在は著しく減っていたりします。
こういう体験が、以前は子供の発達における諸問題を、軽減したり、その中で改善してしまったりということが自然とできていたようです。
例えば、何もないところでも転びやすかったり、簡単な手先を使う動作がとても不器用だったりする「発達性協調運動障がい」というものが発達障がいのなかにはあります。
こういうものを持っていたとしても、そういう豊富な経験が目立ってくる年齢になる前に直してしまっていたというようなことが、以前は多くあったのでしょう。
他にも、人と触れることを極端に嫌がる「触覚防衛」というような特徴も、子供同士の遊びの中で「おしくらまんじゅう」なんかをするうちに、少しずつ慣れていってある程度の年齢になるまえに治ってしまったりしていたのでしょう。
そういえば最近では「おしくらまんじゅう」なんて子供たちが自分たちでしているのを見かけることなくなりましたね。
そのように、今では全般的な経験が少ないということが普通になってきています。
そんな現代の子供をとりまく状況というものが、グレーゾーンの子供を増えてきている背景にはあるようです。
その程度が、それほどでもなければ、成長していくなかでその顕著な行動が薄れていくことを期待していいケースもあるけれども、なかには今のうちにある程度あたりをつけて対処しておかなければ、あとあと困ったことになるのではないかというケースもあります。
例えば、就学を前にした4歳児5歳児で、このまま小学校に上がったら「学習障がい」という状況になってしまうのではないか、というようなときもそうです。
これを親にも知らせずに放置してしまうと、その子は小学校に入ってから困ったことになってしまうということが予想できます。
例えば学級崩壊の原因になってしまってその子もその親も責められたりということがないとも言えません。
しかし、保育園のうちに専門医に診てもらったりして、早めに適切な療育を受けることで、他の子と変わらず授業が受けられるようになったり、状況によっては要支援学級を最初から選択したりということもできます。
ですので、発達に問題があると思われるとき、「何もないなら何もない」ということでもいいから、家庭でも気になるようでしたら専門のところで診るだけみてもらいましょうということを勧めています。
まあ、前述のように「なんでもないって言われました! 失礼ねっ!」と不満に思われてしまうことも中にはあるのだけど、それでも発達上の問題が早めにわかったときは、わからないままいった時に比べてはるかに、子供にもそしてもちろん親にも結果的にはよかったということがありますので、できるだけそういった子供の様子には向き合っていくようにしています。
まだまだいろいろありますが、長くなってきたので今回はここまでに。