「愛情」という言葉のリスク - 2018.02.18 Sun
僕は、保育・教育・子育て関係者が、しばしばとても気軽に「愛情」という言葉を発するのを聞くたびに、いろんな思いが頭の中を駆け巡ってしまってモヤモヤしてしまいます。
「愛情」という言葉は、一般に「それは揺るぎない子育ての真実」のようなとらえ方をされていることでしょう。
しかし、僕はそこに複数の誤解やミスリード、負の側面があることを実感的に知っているので、「愛情」が適切に指し示すもの自体は否定しませんが、その言葉を無造作にもちいることに大きな危機感を覚えます。
わかりやすいところから説明していきましょう。
例えば、子供に感情的に手をあげて身体的虐待におちいってしまっている親がいたとします。
この人のしている行為は、肯定できるものではないとは言え、必ずしもその人が「愛情がない」と言えるわけではありません。
その人は、子供を叩いてしまうことを毎回、後悔し、激しい自責の念にかられ、「もうするまい」と何度も心で繰り返し思います。
「子供に申し訳ないことをしてしまっている」
「もっといい親になりたい」
「本当は明るく笑顔で子供と楽しい日々を過ごしたい」
「私のところでなく、他の人のところに生まれた方がよほどこの子は幸せだったのではないだろうか」
「こんなダメな親を他者はさげすむだろう」
そういった数々の気持ちが頭を離れることもありません。
この人は「愛情がない」でしょうか?
表面的な行動だけを見たとき、一般的な子育て観から、その人のことを「愛情がない」と言う人はいるかもしれません。
また、善意から「もっと子供に愛情をかけてあげましょう」といったことを言う人もたくさんいることでしょう。
しかし、それはその当の親に寄り添った言葉ではありません。
その人に寄り添って見たとき、その人は少しも「愛情がない」わけではないのです。
このことは「愛情」のひとつの事実を示しています。
それは、
「愛情があるからといって、必ずしも子育てがうまくいくわけではない」ということです。
(もっと言えば、「愛情の多い少ないことと、子育てがうまくいくかいかないかは別問題」と言えます。
「そもそも愛情ってなんなのさ?」という疑問すらわいてきます)
しかし、「愛情」という言葉が世間に流布すればするほど、世の人が「愛情」という言葉を「素晴らしいこと」だともてはやせばもてはやすほど、この人は自分を責めたり、実際に世間の人がこの人をさげすむことにつながります。
このことを実際のケースを通して理解してしまうと、「子育てには愛情が大切よね」と気軽に言うことは恐ろしくてできなくなってしまいます。
世間にはある種の「すり込み」のようなものがあって、「愛情」は万能の言葉のようにとらえられています。
それが僕にはとてもあやういことに感じられてしまうのです。
ここで述べた「行動と内面のギャップ」の側面以外にも、「愛情」という言葉の持つ問題点には、
・その概念が自己犠牲を包摂している
・親子関係の異常な緊密化、「親による子供の支配」を招く場合がある
・その言葉を使うとき「呪縛」として機能する
・「愛情」という言葉の持つイメージの「完全無欠性」ゆえに、批判できない主張となる
・そもそも「愛情」という概念は抽象的・多面的すぎて、一般化して語れない
などの点をあげることができます。
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● COMMENT ●
おとーちゃんが折に触れて、「愛情」と「子育てが上手くいく」ことは独立した事象であると言ってきてくださったことが、私のお守りになっています。
この2つには因果関係(愛情があるから子育てが上手くいく)もないし、
相関関係(愛情がある人ほど子育てが上手くいく傾向がある)すらない
というのは、ふとこどもに「困った姿」が出たときに、
よくよく自分に言い聞かせていることです。
シンプルに自分の行動を見直し(最近忙しくて接し方が雑になっていないか、不要な育児情報を入手して焦ってないか)、
淡々と自分の行動を変えていく(かわいい、大好きと声に出して言う)と
そのうち(笑)また良い循環に入っていくと感じます。
「愛情」なんていう自分の「心の持ちよう」に疑いを持ってしまうと、
どうしたら良いのかわからなくなって動けなくなってしまいますよね。
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しっかり自分と向き合って、子供への愛情と、もはや憎しみに変わりつつあるダンナへの愛情(笑)を再確認してみます。