権威体質な学校のあり方への疑問 - 2018.04.15 Sun
そのひとつが、端々から感じる権威体質です。
特にこの学校は、近年統廃合により生まれた新設校なので、より最近の教育施策の影響を強く受けてしまっているのかもしれません。
日本では、学校の運営は民主的になされることが決まっています。
人が集団を形作れば、多かれ少なかれある程度権威的な構造はおのずと生まれるものですが、民主的な運営を旨とする学校組織において、それに対して節度を持ち権威的になりすぎない姿勢は必要であると考えられます。
例えば、学校長は責任者でその職責は重いものですが、だからといって、校長が絶対権力者になって恣意的になんでもできてしまうということになったら、それは民主的とは言えませんね。
もし仮に、そのようになったらハラスメントもし放題といったことになってしまいます。これは学校だけに限らないことです。
職責上立場が上ということと、人として対等というのは両立し得ないことではありません。これは当たり前でしかないことですが、悲しいことに現実には往々にして立場の上下を利用した不適切な行為が数限りなく起こっています。
もし、学校の運営が、権威主義によりすぎて、上の人の意見が強くなり、そうでない人が自由に意見を言えない場になれば、学校という場は教員にとっても生徒にとっても、簡単に支配・服従がはびこることになります。
そもそも、大人対子供の施設において、これはよくよく注意しなければ常に起こりうる可能性を秘めています。
だからこそ、「子供」という概念の適切な理解や、その尊重がそこの大人には求められています。
(本論とそれるので括弧書きで述べますが、例えば、「子供は大人に従うもので、従わなければ体罰もやむを得ない」といった理解の大人がそこにいれば、体罰という行為は簡単に起こるといったことがその一例としてあげられます)
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学校の権威体質の問題で、特にこういった式典において出てくるのが「君が代・日の丸」の問題です。
これは近年この問題にはじめて触れた人など、この問題の本当の論点や経緯をご存じない人もいると思いますので、少し説明を試みましょう。
いま、「君が代・日の丸」はマナー論で理解している人が多くなっています。
国旗・国家であるものに礼をしないのはマナーに反するといった解釈ですね。
実は、こういった見方はごく最近のものでしかありません。
僕自身、国旗・国家になんのためらいもなく全ての人が敬意を示せるものになっていたらどんなに良いかと思います。
しかし、現状においてはそうではありませんし、それは納得できる合理的な理由がつくものです。
まず、日の丸・君が代の問題はマナー論では語れない性質のものです。
日の丸・君が代を敬愛したいという人がいることは全然問題のないことです。
しかし同様に、そう思えない人がいるというのも否定できるものではありません。
なぜかというと、それらが戦前において日本が軍国化や侵略戦争や、そこにおける多くの人の犠牲を生み出したものの象徴のひとつであることも、また紛れもない事実だからです。
第二次世界大戦において、諸外国の多くの人が犠牲になったのと同じく、日本の国民も大勢犠牲になっています。
その国民の犠牲も全てがやむを得なかったものだけではなく、中には政府や軍部の無謀な方針により、無為に餓死したり戦病死したり、また民間人でありながらも空襲などの戦火の犠牲や、沖縄のように地上戦の犠牲になった人たち、原爆により亡くなった人たち、国策による人権侵害的な不当な労働の犠牲になった人たち・・・・・・、そういった方々も多数おります。そういった人たちがみな誰かの親であったり、誰かの子であったわけです。
そのときの象徴のひとつであったものが、君が代・日の丸であったことは、これは明らかな歴史的事実です。
◆
人によっては自身の気持ちや、考え方ゆえに、君が代・日の丸を賛美することができない人がいるというのも、これは否定できるものではなかったわけですね。
それゆえ、日本が戦後になっても、引き続き日の丸・君が代を国旗・国家として使い続ける以上、全員にそれを同様に求めることができなくなったのは、ある種必然でした。
ですから、日の丸・君が代の問題は、マナーの問題ではなく、戦後この方長らく「個人の思想・信条」の問題であり、それは社会的にも認められていたのでした。
思想信条の問題は、これは憲法が定めるようにその自由が保障されています。
これと近似値にあるものとして、「信仰の自由」もありますね。
人が誰かに信仰を強要されないのと同じように、思想信条も誰かに強要してはならないことです。
これは、公務員であるとか民間人であるとかも関係ないことです。
どこどこの市役所に勤めたから、○○教に改宗させられたということを聴いたことがないのと同じように、思想信条を誰かに強要されることもないものです。
しかし、第二次世界大戦の終戦からかなりの月日が経ち、戦争の記憶が薄れる過程で、君が代・日の丸の問題を実感的にそういった背景のあるものとしてとらえられない若い人たちも増えてきています。
僕の同世代は、祖父母どころか、まだ親ですら戦中生まれという人がいた時代ですが、その僕の世代ですら戦争の記憶を間接的にでも持っている人は少なくなっています。ですから、もう若い人たちということも言えないですね。
そういった中で、だんだんと君が代・日の丸の問題を思想信条の問題と社会が理解できなくなってきて、とうとうマナーの問題というレベルで解釈されるようになってしまいました。
これには、単に記憶が薄れた、社会のコンセンサスが時代の経過とともに変わったというだけでなく、戦略的にそのように持っていった人たちがいたのかもしれません。
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また、学校においてはもうひとつ別の見地からの理由があります。
それは、戦前・戦中において、国が国策として学校教育を軍国主義化の手段として用い、学校や教員が積極的にそれに参加したり、参加させられたという歴史がある点です。
戦後のGHQによる民主化施策で、「財閥解体」や「農地解放」というのを習ったことを覚えている人もいるかと思います。このとき実はセットで「師範学校の解体」というのも教わっているのですが、これは忘れている人も多いようです。
この「師範学校の解体」というのが、子供たちを戦争利用したことへの批判であり、その反省から戦後日本の教育が整備されていきます。
子供たちを国策利用しない、ということが現代日本の教育の基となっています。
この観点から、かつての象徴であったものが避けられるというのは論理的整合性のあることです。
それら象徴のひとつが、日の丸・君が代であり、「教育勅語」であったり、「ご真影」(天皇の肖像)であったりしました。
この観点から、学校において日の丸・君が代を強要しないという主張があったわけです。
これに関しては、国旗国歌法が制定されたときの小渕恵三首相答弁でも、再三にわたって「強制しない」「不利益のこうむることがあってはならない」となされました。
しかし、現実にはその後、各自治体において数々の譴責や処分が起こり、現在のように実質強要されるようになっています。
◆
ずいぶん長かったですが、ここまでが経緯の概要です。
さて、この記事の主題は、日の丸・君が代についてではなく、学校の権威体質についてでした。
実のところ、日の丸・君が代の問題はそれ自体がどうという問題とは別に、現在では学校の権威的な運営のために使われているという現在直面する大きな問題がでています。
これを一種の踏み絵とすることで、学校にいる人たちが権威的なヒエラルキーに従う構造を作られています。
最近、政治の教育介入のニュースがいくつもありました。
これが可能になっているのも、学校が権威にひれ伏す体質を持たされていることが背景にはあるでしょう。
権威的な体質を持った学校では、自分の意見を持つ人間よりも権威に従順な人間が好まれ、さらにはそういった人間になるような教育すら起こります。
そこでは他者と違う子の排除や、能力の劣る子の排除・蔑視も起こりえます。
もちろん、これからの社会に必要な、自身の意見や、創造的な思考をもった人間の育成も難しくなります。
以前にも紹介したことがありますが、中学校の道徳の本に「権利の主張は義務を果たしてから」といったものが書かれたものがありました。
これはとんでもない誤りなのですが、権威的な体質を持った学校にとってはこのような誤りすら子供に教えていくのは都合のよいことでしょう。
ちなみに、この「権利の主張は義務を果たしてから」という言葉は、一見もっともらしく聞こえ、大人ですら口にする人がおります。しかし、現代社会においてこれが誤りであることは大人が適切に理解していなければならないことのひとつです。
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