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2018-11

なぜ保育のバックボーンを「愛情」にすべきでないのか - 2018.09.05 Wed

先ほどブログにあげた研修のお知らせ文を、Facebookのいくつかの保育士グループにも載せたのだけど、その中のひとつはいつも「保育は愛だよね」と言っている人たちが多いグループなので、「愛情という言葉を保育の専門性の担保にしてきたからこの何十年保育は発展しないのだ」というくだりには反発も多いかなと正直思う。
でもまあ、事実だから仕方がない。

「愛」を保育の屋台骨に据えている人は山ほどいるし、なかにはそのスタンスで本当にいい保育をしている人もたくさんいる。それは事実。
でも、それは今後の保育界のためには僕はプラスにならないと断言できる。




◆「愛」だけでは保育理念として不十分
「愛」を口にしながら、ひどい保育をしているひともいるし、ひどいまではいなかくともお粗末な保育をしている人もいる。

なぜか?
だって、「愛」は抽象論に過ぎないから。
体罰しながら「愛」っていう人だって山ほどいるでしょ。
抽象論はだれだって口にできるんです。


本当はプロの仕事なのだから、その抽象論を具体論に置き換えられなければなりません。
「じゃあ、あなたのいう愛って子供になにをどういう風にすることなの?」と聴かれたら、それはこれこれこういうことです。そして実際にこのようにやっています」と言えるのがプロの仕事。つまり専門性のある保育。

抽象論だけで、素晴らしい仕事ができてしまう人がいるのも事実です。
しかし、それは敷衍すること、具体論として他者に広めることが難しくなります。
保育は、ひとりの天才の仕事よりも、仕事のスキルを持った10人の凡人の方がはるかに子供や社会の利益になります。

その人のセンスが良くて、いい仕事がたまたまできてしまうというのは、一見するとスマートでかっこいいのだけど、現実はあまりいいものではありません。
例えば、職人仕事に置き換えて考えてみればそれはわかります。

家具職人がいたとします。その人がいいものを作れるのは、たまたまではなくそれを作れるだけの技術(保育でいえば保育スキル)、そしてこういうモノを作るという意図(保育でいえば配慮)があってこそです。よく経験や勘ということがもてはやされるけど、それはあくまでこれらがあってこそのものです。
このようにセンスや抽象論に、その仕事が担保されているのではなく、スキルと意図に寄っています。

保育も同様で、「愛」という抽象論だけを良い保育の後ろ支えにしては、それは長い目で見たときの保育の向上のためにはなりません。


◆センス、感情論は継続が保証できない
ひとりの人が漠然と持っている抽象論を専門性の担保にしていると、それは容易にくずれます。
こんなことがあります。

平保育士時代、子供たちにいい保育をしていたと思っていた人が、主任や園長になったとたん職員に対してもハラスメント上司になり、子供に対してもその子個人の利益よりも、クラスや園としての評価のために「○○できる」ことを求めはじめたり。


また、そのようでなくとも、自分の個人的問題や家族の問題が起こってしまうと、それまでのよかった保育はどこへやら、子供に厳しく八つ当たりするような保育になってしまったり。
こんなことを僕自身もたくさん見てきたし、いまでもひんぱんに現役の保育士さんから同様の話を聴きます。
このように、抽象論や感情論を、プロの仕事の担保にしてはならないのです


◆「愛」は口にするだけで気分が良くなってしまう言葉
しかし、この点に気づいている保育士や保育学者も少なくないのになぜここから進歩しないのでしょう?
ひとつは、「愛」というのが「よきもの」と一般に見なされているので、そこに否を唱えるのは勇気がいること。単純に、読み手が好まないもの書いても本売れないしね。


もういっこ、こっちが大きな理由。
愛という言葉と「承認欲求」が密接な関係を持っているからです。

このように見てみるとそれが見えてきます。

「保育には愛が大切だよね」などに類することを言っている人の心理を考えてみます。
それを口に乗せる人は、ほぼ100%の人が「自分はそれができているよ。もちろん」という心情を持っています。

このとき、実際にできているかどうかは関係ありません。
素晴らしいレベルでできている人もいれば、真逆の人もいることでしょう。
ただ、「愛」という「良きもの」を口にするとき、自分はその「よきものの実践者である」という自己承認をすることができます。

これは大変気分のいいものです。
保育士グループのようなところだと、そういった人たちが集って互いに素晴らしいと認め合うことができるので、なおのことそれは高まります。
別にそれをしている人たちを批判しているわけではありませんよ。全員が承認欲求に飢えていると言うわけでもありません、そういった心理が醸成されうるという話です。


◆「愛」が作り出す、精神的負担
ここに、もうひとつの「愛」のもたらす側面が見えてきます。
「愛」で保育を作っていくと、この承認欲求の肥大が避けられません。
なぜならば、「愛」という言葉は自己犠牲を求める心理をもたらすからです。

自己犠牲的に仕事をすることになるので、そのしんどさとバランスをとるための、なんらかのバランサーが天秤秤の反対がわに載せる必要がでてきます。それが承認欲求です。


「保育って愛だよね。子供ってかわいいよね。(それができている私って素敵、誰か認めて)」という心理や、子供の行動による成果「私が指導したから、○○ができるようになった」、「子供たちに運動会を立派にやらせて大勢の人に見てもらった」。立派な壁面装飾を作成した。
こういった目に見える承認欲求を欲せずにはいられなくなります。


これで子供も保護者も園もwin-winの状態であれば、まだいいのですが。(それとて本当はプロの仕事としたら無自覚のそしりは免れ得ないのだが)
子供や保護者の利益そっちのけで、自身の承認欲求のために保育を展開していくようになると、そこに保育の専門性はなくなります。

だから、「愛」という感情論抽象論を保育の専門性の担保に使うことはできないのです


◆補足1 「承認欲求」について
承認欲求自体は悪いわけではありません。
しかし、それのためにクライアントの不利益までも生み出してはいけないのです。

(例えば、「立派な朝の会をやりたい」という保育士の主観的な思いから、発達段階や状況がそれを可能にしていない子に対してまで、「座りなさい」「話を聴きなさい」「言うことを聴かない子はホールから出て行きなさい」というような不適切な保育など)

あくまでクライアントの十分な利益の上に、プロとしての承認欲求を満たしていくべきです。
ゆえに、「プライドは自分に持つのではなく、仕事に持つべき」と考えられます。



◆補足2 「愛」という言葉は束縛や支配、抑圧のために便利に使える
「愛」という言葉は、ハラスメントをする人も大変好んで使います。

例:
・自分の手柄にしたいために子供に○○させることを担任に要求する。それが子供の不利益になるからと拒否した担任に対して、「あなたは保育士として愛情がない」と非難する

・毒親が子供を支配するために「私はあなたにどれだけ愛情をかけたと思っているのだ、この親不孝者」とののしる


この言葉は「よいもの」であるがゆえに、人を束縛しコントロールすることにも使えると言う側面もあることも忘れないようにしておきたいものです。


※この文章はTwitterで投稿したものを加筆訂正して作成しました
https://twitter.com/hoikushioto

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● COMMENT ●

承認欲求について

いつもおとーちゃんのブログの記事からは新しい気付きをくれたり、自分の中のモヤモヤをスッキリさせてくれる感覚があり、楽しみに読んでいます。ありがとうございます。


最近、よく承認欲求という事について考えています。

承認欲求は誰にでもあるもので、人として普通の欲求ではあると思うのですが、承認欲求の強すぎる同僚のことで悩んでいます。保育士です。

その様な人は承認欲求を満たそうとしてか、子どもに支配的な保育をしたり、同僚にも攻撃的になったり、自分の主張を押し通そうとしたりする事が多く…子どもも可哀想ですし周りの職員もその人にビクビクしながら関わっている状況です。

承認欲求が強い同僚への対応はどのようにしたらいいのでしょうか。

その人に合う適切なカウンセリングに行き、その人自身が承認欲求が強すぎる事を自覚して、自分で解決していければベストだとは思うのですが、なかなかそれは難しく…。

周りがその人を認めて続けていくことが、少しでも承認欲求が満たされていき、改善に繋がるのでしょうか。

それとも、その人の承認欲求が強くなった原因を探り、そこの問題をケアしていくことが必要なのでしょうか。

大人にだけならまだしも、子どもに承認欲求を満たしてもらおうとする保育はもう止めて欲しいと思っています。

講演会・研修等でお忙しいと思いますが、お時間ある時に助言頂けると幸いです。


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楽しく無理のない子育てを広めたいと2009年ブログ開設。多くの方の応援があって著作の出版や講演活動をするようになりました。 現在は、子育て講演や保育士セミナーの他、『たまひよ』や『AERA with Baby 』等の子育て雑誌の監修やコラム執筆。『ジョブデポ保育士』の監修や育児相談などをいたしております。

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