FC2ブログ

2019-01

近代化していない日本と近代化していない教育 - 2019.01.13 Sun

先日電車に乗っていたら、車窓から見えた中学校の屋上に大きな看板で「困難を乗り越えて羽ばたこう」という標語がかけられていました。

おそらくこういった標語が学校にあったとしても、多くの人は気にも留めずスルーしてしまうのではないでしょうか。また、もしそれを読んだとしても、「うん、まあそうだよな」くらいの感想になる人は多いのではないでしょうか。

僕は、これをスルーできませんでした。
それを見てからずっと悩み続けました。

これを見て感じるところ。端的に言ってしまえば、日本はまだ近代化していないのだということです。
なにをオーバーなと思われるかも知れませんが、僕はどうにもそうとしか思えない深刻な問題でした。





これは学校に掲げられているのですから、そこに教育的な要素があると考えられて税金から予算を出して設置していると言うことでしょう。おそらく数十万円の単位では収まらないお金がかかっているのではないでしょうか。

学校が、この言葉に教育的な要素を盛り込んでいるわけです。

この標語を考えると、「困難」ありきで考えていますね。
「困難というのはあるものなんだ、だから乗り越えろ」と。

これは近代というよりも、前近代の人たちのものの考え方です。

例えば、農業で考えてみましょう。
農業というのは、自然を相手にする営みで、そこには大きな困難をともなってきました。

いまでも自然災害など、人の力ではいかんともしがたい事象にあって被害をこうむることはまれではありません。
これが、かつて近代化する前の段階ではその困難さはより大きなものでした。
その中では手を尽くせる人知にも限りがあり、神頼みなどに頼らなければならなかったわけです。

社会の進歩が進み近代にはいってからは、完全にではないとは言え品種改良などさまざまな科学的な知見を積み上げたり、工業化による恩恵を利用しながら発展してきています。

つまり、困難はあるけど、その困難自体をなくしていこうという姿勢で対峙してきたのが近代以降の社会です。
これは農業に限らないわけですね。

また、人々の生きる政治的な状況でも同様です。
近代以前は、王様がいたり、日本では固定的な身分制度がありお殿様がいた時代です。
この中では、政治の有り様を庶民が変えることは基本的にできませんでした。
つまり、枠組みは決まっているわけです。
その枠組みが困難なものである場合、それに耐えるという選択肢がほぼ唯一の取り得る対応でした。

近代社会、近代国家になって、そこからの様々な進歩を経て、世界は枠組みを変えられるという知見を得てきました。それが近代というあり方です。


しかし、この学校の掲げている標語は、そのことを何ら示唆していません。
むしろ、前近代の考え方をいまでもなぞることが、教育要素だとしているかのようです。

「乗り越えて羽ばたく」というのは、その困難を解決しようという意味も含んでいるのではと言う指摘もあるかもしれません。

これが学校以外のところであれば、そう考えられなくもないかもしれません。それでも結構厳しい解釈かとは思いますが。


ですが、ここでのこの言葉が子供たちに向けられた教育的な要素であることを考えると、近代という文脈の上ではその解釈は成り立たないのです。


近代の得た知見のひとつに、「子供」という概念があります。
子供の権利条約などに集約されているものですね。

そのなかのとても大切なことのひとつが、「子供とは社会的に守られるもの」という考え方です。

先進国といわれる国々、もちろん先進国と呼ばれない国でも、この考え方を非常に重んじています。

「子供は守られるもの」

これを大切なものとしてとらえている社会では、「困難」と「子供」というふたつのファクターがあった場合、その間にあるものはそのふたつをできるだけ「遠ざけよう」とする視点、考え方です。

敢えて、そのふたつを「近づけるのだ」とする考え方は、すでにある「困難」がどうにも変えられない状況を持っている社会的に後れた、前近代的なあり方の国におけるものでしかありません。


近代的な社会では、こう考えます。

「確かに世の中には困難がある。だから私たち大人は自分たちの世代でできるだけ目の前にある困難を解決し、そして次代を担う子供たちにバトンタッチしよう。
きっとバトンタッチした後でも、それでもいろいろな困難があるだろう、それはその世代が解決に取り組みまた次代をより良いものにして引き継いでいってもらいたい。そのために、いま大人は子供たちに社会をより良くするスキル(教育)を最大限の努力を払って持たせていこう」

これが近代社会が持つ子供への基礎的なスタンスです。


日本では、「困難」に対してそれを解決することよりも、「耐えること」をひたすらに教えていきます。そのことは子供への教育にとどまらず、大人の社会にも反映されています。

・ブラック企業、過労死、過労自死、ウツ、
・痴漢や性犯罪の被害にあっても被害者を責める
・共働きでも子供に弁当を作って持たせるのが親の愛情だ
・子供をベビーカーに乗せて電車に乗るなど迷惑だ。私たちの若いときはもっと大変だった
・いじめられる方にも悪いところがある
・体罰をするのはお前のためを思っているからだ、している自分だって心が痛い
・夫が会社でされるパワハラの不満を、妻にモラハラでぶつけ、妻はそれを子供に八つ当たりし

これら、みな上から下へと「困難」を強要しています。

具体的なところでは全国で相次ぐ、過労によるバス運転士の事故などもそうです。

12月に挙げた『健全な保育施設運営のために』の記事で描いた構図も、これとまったく同じです。
 ・施設が職員に過重労働を強い。職員が子供にイライラをぶつけ


そもそも子育てそのものが、「母親に困難を押しつける」という構図から抜けきれていません。


もし、仮に誰でもできる努力の範囲で全ての困難が乗り越えられるのだとしたら、「困難を乗り越えて羽ばたこう」を教育要素としてもいいかもしれません。

しかし、現実はそうならないのです。


この教育方針で子供たちを育てると、子供は枠組みを変えることを知らないまま大人になります。
すると、どうなるか。
その困難が乗り越えられない場合、そこでの不満は向かいやすいところへ向かいます。

枠組み、つまり自分よりも上の状況が変えられないと思っているのですから、下に向かっていきます。つまり弱い方です。


例えば、いま話題のPTAの問題で考えてみます。

共働き家庭が増えてきた昨今、学校のPTA活動は以前のようにすんなり(以前もすんなりいっていなかったと思いますが)とはいかなくなっています。
多くの人が、しんどい思いをして我慢してやっているという状態になっています。

もし、
「PTAのあり方無理のないように変えていきましょうよ」
「そうですね。ではこの行事はなくしてみたらどうでしょう?」

といった枠組みを変える方向のアクションが取れればいいですが、それができず枠組みは変えられないという困難前提の中で我慢や頑張りを重ねていくと、「役員は大変。役員やってないあの人はいいな」から「役員していないあの人はずるい」とそういった心理が形成されることをなかなか止められません。

そのように、弱いところへ弱いところへと、人はネガティブな気持ちを向けていくのです。

しばしば起こる生活保護者や障がい者パッシング、公務員パッシングなども同じです。

「自分たちの生活はこういう状況で苦しい。だからこのように改善してほしい」

こういったアクションをとっていいというのが、近現代のあり方なのだけど、それをしない、できない、よくないとされてしまうと、弱いところへとその負荷が向けられます。

「生活保護などもらってずるい。あいつらは自分たち収めた税金をかすめ取っている」

悲しいかな、このように思ってしまう人もでてきます。
そして実際、こういったことが差別や蔑視へと派生し、それがそこいら中で起こっているのが現在の日本の社会です。


まさにこれを助長しているのが、日本の義務教育のあり方です。

「困難を乗り越えて羽ばたこう」

この標語は一見モラリスティックです。立派で、疑う余地のないようにすら聞こえてしまいます。
しかし、これは第二次世界大戦中のプロパガンダ「欲しがりません勝つまでは!」と本質的になにも変わっていません。
もっと言えば、多くの人を無為に餓死や病死に追い込んだインパール作戦の理屈とまったく同じです。


教育として子供たちにこれを課していくことは、あまりにも現代社会に生きる大人として恥ずかしいことだと僕は強く感じます。


これに疑問を持たない人が多いというのは、そもそもすでに大人達がこの価値観を自分のものとして刷り込まれてしまっているからでしょう。

いつの間にか、誰かから刷り込まれた考えを自分の考えと思ってしまう。
これが教育の怖さです。


関連記事

● COMMENT ●

「子供は守られるもの」

だという言説は、数年前ツイッター始めてから知りました。それまでは知らなかった。未成年者を大人は守るべきだという規範がある事を知らなかったんです。
多分、大抵の人は知らないと思う…。自己責任だと思ってる。

犯罪捜査もののアメリカドラマ見てると、被害者が未成年だったりすると刑事達は普段に増して傷ましがり、必死になって捜査するんですけど、ようやくその態度の謎が解けました。

ちなみに、うちの近所の小学校には正門脇に石碑があり、そこには「より早くより強くより美しく」と刻まれています。
初等教育の現場に必要だとは到底思えない価値観です。しかも石碑を設置してまでって…
そして友人にその話をしても全然ピンと来ないらしく、その点でもダメージが大きい。
夫からは「何それ!?!?」の反応を貰えたので、いい男と結婚出来て良かったと思いましたけど!

工業製品の工場かなと思いましたよ
オリンピック選手の養成施設なら…それでもギリギリかなー…

Re: 「子供は守られるもの」

まあ、オリンピックの標語そのものが、20世紀におけるファシズムや全体主義のプロパガンダの昇華みたいなものですから、類似性は強いでしょうね。
だから、いまの日本の学校はあれだけ東京オリンピック推進になっているのです。一周回って全部つながっています。

子供より仕事優先

私の両親は自営業で、私が幼い頃から仕事ばかりの生活でした。
日々の母の「仕事が忙しいから出来ない、後にして、我慢して」の言葉には、自分の思いを飲み込むしかありませんでした。
結局、私は高校を卒業する頃まで、ことごとく親に反抗し、言い様のない苛立ちと寂しさを抱えていました。

父は「お前は、子供の時から親に何もしてもらえない人生だけど、その苦労は大事だぞ」と言いました。
私が幼い時からそう言っていましたし、その時の私は、言葉が出てこず、涙が出るだけでした。
私が大人になってから、母にも同じようなことを言われた時には、両親揃ってこんな考え方なのかと愕然としました。
苦労って、自ら社会で経験するものであっても、両親から贈り物のように与えられるものではないです。
私は、もっと両親に守ってもらいたかったです。
「子供に我慢させ続けてきたけど、これで良かったんだ」と思っている両親が本当に悲しいです。


トラックバック

http://hoikushipapa.jp/tb.php/1272-7ff88693
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2月5日(火) 子育て座談会 @杉並 «  | BLOG TOP |  » 体罰の場合。そうでない場合。 vol.2

ごあいさつ

ただいまコメント欄での子育て相談は休止中です。 お悩みのコメント下さっても回答を差し上げることができません。 申し訳ありませんが、過去記事、すでにある返信コメントなどを参考になさってください。 多くの相談への返信がすでにあります。関連するカテゴリーから探す、検索を使って探すなど利用してみてください。 多忙になってしまい、コメントへの返信ができなくなってしまいましたが、お寄せいただいたコメントにはすべて目を通し更新の励みになっております。ありがとうございます。

最新刊

よければレヴューも書いてね!

前作!

最新記事

最新コメント

プロフィール

保育士おとーちゃん

Author:保育士おとーちゃん
当ブログはあくまで個人ブログであり、記事の内容および相談・コメントの返信等は効果を保障するものではありません。
ご利用に当たっては自己責任でお願いします。

楽しく無理のない子育てを広めたいと2009年ブログ開設。多くの方の応援があって著作の出版や講演活動をするようになりました。 現在は、子育て講演や保育士セミナーの他、『たまひよ』や『AERA with Baby 』等の子育て雑誌の監修やコラム執筆。『ジョブデポ保育士』の監修や育児相談などをいたしております。

講演等のご依頼

講演・ワークショップ等のご依頼はFacebookのメッセージ または『保育士おとーちゃんホームページ』 http://hoikushioto-chan.jimdo.com/ よりどうぞ。

カテゴリ

はじめにお読みください (1)
【まとめ】記事 (2)
子育てノウハウ? (81)
子育て日記 (13)
保育園・幼稚園・学校について (116)
日本の子育て文化 (186)
おもちゃ (27)
叱らなくていい子育て (9)
排泄の自立 (11)
『魔の2歳児』 (5)
子育てまめ知識特集 (4)
あそび (41)
おすすめグッズ (9)
おすすめ絵本 (23)
食事について (15)
過保護と過干渉 (45)
満たされた子供 (7)
早期教育 (20)
我が家の子育て日記 (95)
心の育て方 (106)
相談 (84)
子供の人権と保育の質 (77)
その他 (63)
未分類 (23)
講座・ワークショップ (108)
父親の子育て参加について (3)
雑誌・メディア (37)
子育てに苦しむ人へ (27)
保育研修 (3)

保育ひろば

保育ひろば

楽天

FC2カウンター

全記事表示リンク

全ての記事を表示する

おしらせ♪

当ブログはリンクフリーです。トラックバック・リンクはご自由にどうぞ。 しかし、本文・コメント・その他を含めて著作権は私にありますので、引用・転載する場合は連絡をお願いします。また引用元の記載も併せてお願いします。 なお写真の転載はお断りいたします。

ランキングに参加しています

検索フォーム

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

QRコード

QRコード

アクセス解析