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2024-03

「命をいただく」という一般に流布する言葉 - 2019.02.15 Fri

「食べ物は大切なのだから残してはいけない」

この言葉はバイアス中のバイアスと言っても良いでしょう。

「食べ物を大切にする」というのは、道徳的に正しいことです。つまりモラルです。
モラルであるがゆえに「正義」になりえます。

しかし、それだからこそ子育ての大きな落とし穴になります。





子育ては一歩間違えるとモラハラになります。
モラハラっぽくなるのではなく、モラハラそのものになります。

特に、日本では、個性、個人の尊重の文化的背景が希薄なので、ものごとの画一的な押しつけに歯止めをきかせることが難しく、それが顕著になります。


例えば、保育園、幼稚園、学校などで行われる不適切行為の多くが、このモラルを振りかざして行われています。

ある幼稚園では、子供に給食を残させない方針から子供に無理矢理食べさせ、それで嘔吐した子に対して、その吐瀉物を食べさせるという行為が行われました。
これは、自尊心を傷つける行為であり、精神的虐待そのものです。

(本日ニュースになっている、このケースで吐いたものを食べさせています↓
園児に「バカ」「ブタ」、押し入れに閉じ込め…保育園で暴言・体罰13件 福岡市が改善勧告


その幼稚園教諭からすれば、子供に食べ物を残させないというモラル=正義があります。
ゆえに、悪意なくそのような不適切行為が起こっています。
これは異常なことです。

ゆえに、もっともらしいモラル=正義こそ、鵜呑みにするのではなく適切な運用を心がける必要があることがわかります。


しかし、多くの人にとってこういったモラルは、足を止めて考えることなく、「当然のこと」というところから始まってしまうので、バイアスとなってしまいます。




モラルというのは、一見客観的な正しいことのように感じられますが、実は非常に主観的にしか運用され得ません。

ここで、バイアスを解くために、ひとつの考え方のロールモデルを示してみます。

「命を頂くのだからいただきますという言葉を言うのだ」という風に一般では言われ、多くの人がそれを認識していることでしょう。


さて、「マグロの解体ショー」なるものが、最近ではもてはやされています。

「マグロの解体ショー」は、「命を大切に感謝していただく」「食べ物を大切に」というモラルと矛盾してはいないでしょうか?


「命を頂くのだから食べ物を残してはいけない」というモラリスティックな言葉はたくさん耳にしますが、「命を頂いているのにそれを面白がってショーにするのは不道徳だ」という批判や、疑問の声が上がっているのを僕は聞いたことがありません。


これは考え方のロールモデルを理解する思考実験なので、マグロの解体ショーが道徳的に適切かどうかというのは、ここでは問題ではありません。

ここで気づいて欲しいのは、モラルというものは存外、主観的にしか運用されていないということです。
つまり、モラルは自分の都合の良いときだけ出すことでき、しかもその程度の解釈も勝手にできてしまうものであるわけです。


だから、保育や教育の現場でモラルをもてはやすと、そこの権力者である大人によって不適切運用も簡単になされてしまうわけです。
不適切運用の実態は、「支配の関わり」です。
「モラル」が他者に対する支配の道具になるわけです。


家庭の子育てで考えてみれば、そのバイアスに流されてしまえば子育てがいつのまにか単なるモラルハラスメントになる可能性を常に持っていると言えます。



◆モラハラはモラハラ体質を生む

ある保育士のケースです。

その保育士は、園児に対して食事指導が非常に厳しかったです。
冷たく嫌みな言い方をしたり、ヒステリックに怒ったり、食べないと戸外遊びをさせないと脅したり疎外したり。

あまりに感情的になっておりその本人も苦しそうなので、同僚が見かねて「そういうあなたは好き嫌いないの?」と聞くと、実はいろいろ苦手な食べ物があるとのこと。
厳しい食事指導は、自分自身が過去に家庭や幼稚園、学校でされたものであったことなどが本人の口から話されました。


つまり、その人は自分がされたことを今度は立場を変えて自分が子供たちにしているということです。

しかし、それも変な話なのです。
というのも、その人はそういった厳しい関わり方をされても、その人の偏食という問題は解決しなかったわけですが、その解決しない方法を繰り返していることがです。

しかし、当人はそのようにそういった手法で関わられても効果がなかったのだという客観的な見方はできません。
なぜなら、そのように考えるのではなく「できない自分がダメなのだ」という自己否定のメンタルとして理解、吸収されているからです。
つまり、単に一時の食の個性という子供時代の問題が、周囲の大人によって人格上の問題として副次的にもたらされてしまっています。


その人が、自分のされた嫌だった行為を繰り返してしまう理由は、そうしたモラハラ行為により自分自身の自尊心が傷を負っていることとも関係があります。

人は、心に傷を負うとなんらかの方法でそれを修復します。
良い形で修復される場合もありますが、おちいりやすいのは自分のされた行為を他者にすることです。

それにより自分の心の傷は一瞬なだめられます。しかし、本質的には解決されません。
それをしたところで自身の持つ自己肯定の低さや自尊感情の問題は改善されないからです。
これを長年続けてしまうと、それが体質化してモラハラ体質の人格へと派生してしまうことがあります。

子供に対する職場は、これが引き起こされやすいところでもあります。



◆家庭の子育てでは

子育てはモラハラそのものになると最初に述べました。

親としては一生懸命子育てしているつもりでも、そのやっていることの中身がモラハラの蓄積だとしたら、子供はどのようになるでしょうか。(ただしこれには程度やバランスの要素があり、必ずしもそれが直ちに問題化するわけではありません)

ひとつの方向としては萎縮が挙げられます。
自尊感情や、自己肯定、自己表現、自己決定が減少したり、できなくなったり。


もうひとつのは、他者にされたことを繰り返す方向です。
意地悪な行為や、いわゆる「いじめ」へとつながります。

「いじめ」はなんらかの理由をつけて、特定の子の自尊心を傷つけたり、疎外したり、攻撃する行為です。
このなんらかの理由は、しばしばモラルなのです。

「○○のせいで、自分の班は先生に怒られた」
「○○は不潔だ」
「○○はいつも物忘れをして迷惑をかける」

などなど。
モラルは主観による運用が可能なので、理由はどこにでもつけられます。

大人でも、例えば議論の旗色が悪くなると、「そのいい方は失礼だ」などとモラルの話にすり替えてマウントを取ろうとする人もいますね。



子供たちは、自分がされたモラハラから、心のバランスを取るためにいじめへと向かわされてしまいます。
いじめが問題となることの背景には、日本の子育てにモラハラが多いという事実のあることを僕は指摘します。


「当たり前」「正しいこと」「モラル」「道徳」
こういったことを根拠に子供への関わりをするとき、大人はよくよく気をつけないとそれらはそのままバイアスとなり、子供にも大人にとっても子育てを辛いものにしてしまいかねません。

特に「ネガティブとみえる個性を持っている子」(例:少食、偏食、人見知り、引っ込み思案、話すこと、対人関係が苦手など)の場合、それはさらに顕著になります。


づづく。


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● COMMENT ●

保育士しています。
私の勤めている保育園も給食はシビアです。
給食で時間がかかり居残りをして食べている
子は色んな先生からネチネチ言われたり、呆れられたりしている感じです。
みんな色々な苦手があるけど、給食に対してはやはり残すの好き嫌いはいけないことだという雰囲気が大人にあります。
毎日の給食で残って食べる子は決まっていて
みんなが遊んでいる中給食に向かい合って
先生からはマイナスな言葉をかけられ本当に辛いだろうと思います。

未満児のクラスでは
先生が食べさせたいあまり嫌がる子にムリヤリ口に苦手な物を押し込ませたりしている
年配の先生がいたりして
私もその残させてはいけない雰囲気
どうにか食べさせる先生がすごいんだ!というような空気
これが子どもを苦しめていると思います。

なので、我が子にもより厳しく
ご飯は食べないと我が子が園で困ると思うためになんとかご飯を食べさせることに必死になっていました。


前回のおとーちゃんの記事を見て
こんなに一生懸命に子どもに苦手に向き合わせなくていいんだと知りました。
今までやっていたことの反省と
食べさせる!強制させることをしなくとも、子どもが成長していくんだとわかって
ホッとして気が楽になりました。
気が抜けて子どもに一口は食べれるかな?と今日の夕飯で伝えたら
いつもは絶対に嫌がるところが
食べてみる!と子どもがいつもより前向きな姿勢でいてくれました。


職場の保育園も食育といって
子どもたちと野菜を育てたりしているくせに、普段の関わりが間違っているとゆー。
すごく意味のないことをしていますね。

色々考えさせられます。
私も、もうすぐ六歳になる娘の偏食・少食にずっと悩まされてきました。
「好き嫌いはよくない」
「食べ物を残すのはよくない」
「バランスよく食べなければいけない」
などのモラル的なこだわりもさることながら、私の場合、非常に個人的な感情にどうしても左右されてしまいがちです。

「食べ物を残されること自体が不愉快」
「食べ残したものを、処分するのも、母親である自分が食べるのも不快」
「食べ物を残されること=食事がまずい=自分が否定されたように感じる」
「何を作っていいのかわからない(子供が好きな食材や味付け調理方法は限られていて、パターンが固定されている。私自身が、子供が好んで食べる料理に飽きてきた)」
「トータルバランスでと言われても、一食一食が基本偏っているので、寛容になれない」

等々、自分の個人的感情がどうしても先に立ってしまいます。
これらの感情もモラルからきているのでしょうか??

みのむしさんの感情よくわかります!
うちも、偏食の5歳男児に悩まされてきました。彼は今でも納豆ごはんで生きてるような感じです。私は本当に食事を口に押し込んだ事もあるひどい母です…。自己否定されたように受け取めてしまう等、自分の感情について、おとーちゃんさんの見解を私も聞いてみたいです。

子供は本能で食べる

食育については、私は
幕内英夫さんという管理栄養士で病院内で患者さんの食事指導に当たられて来た方の著書を参考にしてきました。
「粗食のすすめ」は有名なので知ってる方も多いかもしれません。
著者によると、子供の食事は楽しみよりも生きるため。空腹を満たすことが優先。本能で生きるために必要な栄養素を自然と選んでいるそうです。子供がピーマンやネギを好まないのは毒素を意味する苦味を本能で嫌うため。甘いものを好むのはよりカロリーが高いことを示しているため。飽食と言われる現代では高カロリーは敬遠されますが、本来生きていく上では生命を維持するエネルギー源は最も大切だったのでしょう。
そのため、子供は本能で高カロリー、甘味を好むのだそうです。野菜もカロリーの高い甘いカボチャやさつまいもなどが人気だそうです。子供は本能で必要のない苦味や酸味は避けている。いずれ成長し、生きるためより楽しみを優先する食事をとるようになると、味覚も変わり、自然と嫌いだった食材も食べるようになるそうです。
ネギや生姜などの薬味、ビールやピーマンの苦味など、これらは大人の嗜好であり、子供が好むわけがないもの。
子供のうちは本能にまかせればほぼ間違いはない、とおっしゃっています。
ただし、砂糖の甘味は本能にまかせていたらとんでもない量を食べてしまうので警鐘を鳴らしていらっしゃいます。
私は子供が生まれてすぐこの方の本に出会いました。とても幸運だったと思っています。おかげで子育てにおいて食事で悩んだことはありません。
保育の世界でも是非知って欲しいと思う内容でした。「残さず食べる」という道徳的な方針ばかりではなく、子供の食べる本能、嗜好も考慮した食事指導が展開されるのを祈るばかりです。


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