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2020-08

【保育】「お気持ち」は保育の低下をまねく - 2020.04.07 Tue

前回の慣らし保育についての記事で「子供が可哀想」と保護者に言うのはやめようと述べた。
ここにおける「可哀想」というのが「お気持ち」のひとつ。

僕自身も保育者として「子供が可哀想」という気持ちは理解できる。
かつて僕自身もそうした思考にとらわれてもいた。
しかし、こうした「お気持ち」を軸に保育や子育てを考えることは、保護者に対してだけでなく、保育者にとってもプラスにならない。


一旦「お気持ちの問題」を軸にして保育を考えるようになると、それは一時にとどまらず施設全体の体質に育っていく。
そのお気持ちが純粋に「いいもの」であってすら、長期的に見れば保育の劣化は免れない。
現実には、お気持ちの問題を軸にしていくと、やがてはそこに「よくないもの」が混じり出す。
しかし、その段階ではすでに「いいもの」と「よくないもの」を区別することはできなくなる。
こうして、保育施設は施設全体の体質、職員の保護者への姿勢、子供への姿勢が劣悪なものに染まってしまう。
だから、最初は善意だったとしても「お気持ち」で専門性ある仕事を考えるのは危険なことだと言える。



『新版 医療倫理Q&A』 関東医学哲学・倫理学会[編] (太陽出版)

この本はタイトル通り医療倫理についての本だが、対人ケアを考える点では保育にも共通するところが多分にある。
そのなかにこうある。

p.20
Q 1-8  良心の声に従っていれば良いか

A 必ずしもそうとはいえない

[良心とはなにか]
倫理学的には、善悪判断の普遍的な根拠に基づく主体的判断とされるが、実際には、個々人の倫理観に基づく主観的な判断と区別することが難しい。

[良心が正しい判断を下しているかどうかは、どこで分かるか]
人権を尊重した判断になっているか否かによって分かる
(後略)


はっきり言えば、「良心」つまり「お気持ちの問題」は、その人の主観とまざってしまうので暴走しかねないと述べられている。


保育施設が「お気持ち」体質になっていくと大きいところでは以下の3つの問題が起きる。

1,モラハラ体質
2,保育の劣化
3,保護者(一般社会)からの専門性の低さの認識




1,モラハラ体質

前回挙げたケース。
新入園時期において、子供が泣いていたり、慣れずに不安に過ごしている状態を指して「子供が可哀想」という理由で保育への同席や時短、お迎えの強要をすることは、それがどんなに善意からであろうとも保護者を不安にしたり、場合によっては保護者への攻撃と感じられたりすることになる。

保護者はもちろん子供のことを大事に思っている。我が子を預けるに際して保護者自身も不安になっている。それ以前に子育てを始めたことによる不安もあることだろう。
そういった状況の人に対して、「あなたの子が可哀想な状況におかれている」というのは、より不安にさせることに他ならない。さらには、それが上からのニュアンスであれば保護者は攻撃されているような気持ちにさえなる。

事実、そうしたポジションをとって保護者にマウンティングする保育者を僕は少なからず見てきた。
これは、子供を人質にとって保護者を攻撃することであり、本来専門職がとるべき態度ではない。

これで保護者間の信頼関係が厚くなるはずもないが、善良で従順な保護者に対してであればこうした上からの態度が継続できてしまう。また、子供を預けざるを得ない人にとっては不快に思っても従わなければならない。

また、この背後にはミソジニーを背景とした母親へのマウンティングの問題が隠れている。
一人親家庭のなかでも父子家庭の父親に対して、「子供が可哀想だから、もっと早くにお迎えに来るように」といった声が保育者から投げかけられることが少ないのに対して、母親であるとこうした要求が強く向けられる。
悪意なく無意識にだが、母親に対して自己犠牲をもとめようとすることは多い。
悪意がないから悪くないのではない、悪意がないからこそより始末に負えないこともある。
保育者は、日本の文化に母親に対するマウンティングが厳然としてあることに留意しなければならない。



さらには、このような「お気持ち」を盾に取ったモラハラは保護者に対してだけでなく、施設内で職員に対しても行われる。

保育園におけるモラハラの典型事例が、「子供が可哀想」「あなたはやる気がない」などのセリフで、施設長や先輩職員が他の職員を攻撃したり、支配したりする行為。

例えば、「朝の会に0歳児を参加させることに発達段階上意味がないのではありませんか?」と施設長の意向に相容れない意見を挙げたときに、「子供たちを参加させてあげないなんて可哀想。あなたがやる気がないのならそれでいいです」といったモラハラがなされる。

「子供が可哀想+やる気がない」
このセットはびっくりするほど、複数の施設でモラハラとして行われてきた。
どこかでモラハラの講習会でもあるのかと思うくらい典型例になっている。

もちろん、そんな講習会があるわけではない。ここで共通しているのが、「お気持ちの問題」体質だ。




お気持ちの問題体質を大きくしていくと、そうした悪意のモラハラも生まれるが、善意のモラハラが生まれることもある。
それは同調圧力として結実し、結果的にそこで働く人たちを息苦しくしていく。

よくあるケースでは、安定していないクラスの担任を、職員皆が冷ややかに見たり、批判したりするケース。前年度担任し、そのクラスの不安定さを生み出した職員が持ち上がりを拒否し、代わりに新担任となった人を批判するようなケースも驚くことによくある話。
このようなことが慢性的になった職場では、誠実な人ほど疲弊していくことになりかねない。

実際には、モラハラ体質の施設では、善意のモラハラの上に悪意のモラハラが君臨するというハイブリッド構造になっていることが多い。保育施設は往々にして小さな職場でしかも外からの風通しが少ない施設なので、上に立つ人、主だった人が支配的だと簡単にこうした状況となる。また、働く人の中には優しい人、対立を好まない人、善意で固められている人も少なくないので、お気持ち体質の蔓延が起きやすくもある。




2,保育の劣化

「お気持ちの問題」で保育を考えるようになると、たとえそれが最初は善意のものであっても、やがて保育は向上しなくなる。

一番の問題点は、保育=お気持ち になってしまうことで、誰もが自己防衛の保育をせざるを得なくなっていくこと。結果的に、同僚の中で保育を語れなくなる。


その体質では、保育がまずいことは、「私の気持ち」に問題があることになるので、そもそもの保育の問題点を自分も同僚も直視することを避けるようになる。
保育の問題点への指摘は、「個人のお気持ちへの批判」ととらえられてしまうので、みなそれができなくなる。
あえてそれをしたところで、それがたとえ冷静で客観的なものであっても、それを受け取る側が「自分のお気持ち」への批判ととらえられると、そこからの反発による攻撃や人間関係の悪化をもたらすので、保育が改善するどころかかえって悪化しかねない。

これが暗黙の内に体質化していく。
当然ながらこれでは保育が継続して向上していくことができない。

善意の人たちばかりであれば、なあなあの現状維持の保育はできるが、それは専門的な向上とは違う種類のものだ。
もし、そこに悪意の人や悪意まではいかないが不適切な保育を習得してしまっている人が入れば、そこの保育は簡単に劣化する。

こうした状況から、施設長や主任が保育の向上を意識していても、ほとんど実効的な向上ができないというケースも少なくない。


これは不思議なことなのだが、一般の社会では、こうした「お気持ちの問題」と「職務上の問題」は切り離して考えましょうねというのが暗黙のルールになっている。もちろん、それができていないところもあるが、そうしたスタンスが大人の態度であるというくらいの認識はあるだろう。
しかし、対人援助の世界では、そうした職務に対するプロフェッショナリズムよりも、いまだに「お気持ちの問題」が大きく幅をきかせている。

保育界はこの状況を意識的に脱する必要があるだろう。
保育のためにも、働く人のためにも。




3,保護者(一般社会)からの専門性の低さの認識

こんなケースがあった。
ある園でのこと、その子は排尿の自立の確立がゆっくりだった。
しかし、園の方針はオムツはできるだけ早期に取るべきというスタンス。
それゆえその子にもオムツをしないことを要求する。しかし、しばしば漏らしてしまうことがあり、その失敗からの気持ちのダメージなどがあり少々不安定になる。失敗の時の大人の対応も快いものではなかった。
保護者は、園にオムツで過ごすことを提案するが、園側はそれを拒否する。
その子は登園拒否を引き起こす。

保護者は、排泄の自立にはばらつきのあることを認めている医療的な資料などをそろえて園に訴える。子供が園にいきたがらないことや、排泄の失敗に否定的な担任のことを嫌だと言っているなどを園に伝え改善を求めると、園長の対応は「先生たちも頑張っているのだからそんなこといわせないでください」の一点張り。
これにより、保護者は園への不信を確定的なものとする。



ここに見られるのも、園側が「先生たち頑張っている」という「お気持ちの問題」を持ち出していること。

保護者は相手を信頼すべき大人として、合理的、論理的に話をしようとしている。
しかし、かえってきたのが「お気持ち」を根拠とした反論。
これでは、話にならないと思われるのも仕方がない。


ちなみに、この保護者対応は二点において間違っている。

ひとつはいま述べた、根拠を揃えて伝えている意見に対してお気持ちの意見で返していること。

ふたつは、先生たちが頑張っていないなど一言も言っていないのに対して、あえて誤解し論点をずらし自分たちが責められているという被害者を装うことで相手の口をふさごうとしていること。
これはストローマン論法(わら人形論法)と言い、議論の中ですれば卑劣と見なされる行為。


本来、専門職であるのにしばしば「お気持ち」で自分たちの専門分野のことを語る人たちを、一般社会は本当の専門職とはみなさない。
これでは、保育士の社会的地位や賃金も上がらないのもある意味では必然だ。


こうした問題点から、「お気持ち体質」から脱していく必要があると僕は考えている。
どういう方向でかというと、一言で言えば「スキル化」(マニュアル化ではない)である。
お気持ちではなく、スキルとしてとらえることで、保育を語り合える土壌を作り向上させていく方向性。
頑張っている感を出したり、自己犠牲をせずとも、専門職としてやるべきことをやればいい仕事。
そこを目指したい。
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