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2023-03

幼保一元化とこども園制度  Vol.5 - 2011.04.03 Sun

ずいぶん間があいてしまいましたが、「幼保一元化とこども園制度」の続きです。
(これまでVol.1~4まで書いてきましたが、ちょっと僕自身表記に混乱していたところがあります。ここで明らかにしておきますね。「認定こども園」というのは2006年から施行されてすでにあるこども園のことで、単に「こども園」というのが今回の新システム法案で作られるところのこども園のことでした。
施設の内容としては限りなく似ているのですが、元になる法律なんかが違うので区別して考えるべきものでした。ここでお詫びと訂正をさせていただきます。)

まず初めに「新システム」の問題点に関する非常にわかりやすい動画が3つこちらに↓ありますので、興味のある方はぜひごらんになってください。
全国福祉保育労働組合東京地方本部HP


1月24日に『子ども・子育て新システム検討会議』の法案化前の最終案が出て以来あまり進展がありませんが、ひとつだけありました。(原稿を書いている3月27日の時点でです)

法案提出は3月とされていましたが、検討会議からの時期尚早という声が反映されたのか、予算案すらどうにもならない状況で出す余裕はないと判断されたのか、1月の時点で法案提出を3月から6月に先送りするということが決定されていました。
その後このたびの震災・原発事故が起こっていますので、6月提出というのもどうなるか今のところわかりません。





1月24日以降4回の検討会議が開かれているようですが、給付金の問題や、学童保育、一時預かりなどの枝葉のことについてばかり議題になっているようで、あまり全体像が見えてきません。

期限までに議題とするテーマが詰まっていてそれらを消化せざるをえないのかな?
1月24日の争点になっていたあたりの問題がスルーされてしまっているような印象を受けます。

参考: 内閣府政策統括官HP 少子化対策 子ども・子育て新システム検討会議


1月24日の争点とは、現時点での「こども園構想」に対するそもそもの反対意見です。
(実際の討議内容は公開されておらず、提出資料から感じた僕の印象ですので、細部に関しては正確にはわかりません。あしからず)

もっとも強い反対意見を出していたのは公私立幼稚園です。とくに私立幼稚園の協会からそれまでの教育理念や方針が、統一的に「こども園」とされてしまうことでその独自性、伝統など守り、利用者に伝えていく事が出来ない、それぞれの母体(お寺や教会などが設置しているところも多いからでしょうか)持ち味をどこまで出していいのか、また出してはいけないのかすら不明確であることなどに強い懸念を表明していました。
たしかに、元が保育園のところや、進出してくる営利企業のこども園もすべての名称が「こども園」となってしまう中で、それまでのしっかりした伝統を持っているところにすれば迷惑なことですよね。

利用者にしたところで、名称はおなじこども園なのに、内容がまったくちがった物がいくつもあってそれぞれについて調べなければならないわけで、名称の統一に返って違和感が感じられるでしょう。


検討会議の中では、必要に応じて各委員が資料を提出するのですが、その立場に応じてはっきりとした思惑の違いが見られます。

あまりにあからさまだったのがやはりお金の問題でした。

保育園関係・幼稚園関係の委員(委員とはいえ個人ではなく様々な団体の代表者)からは収益の使途の限定を強く要望していました。

それに対して、民間業者代表的な立場のベネッセから出向している委員からは、それらの資金の使途を限定しないで欲しいという要望が出ています。


これはどういうことかといいますと。
そのこども園で得られる利益をこども園のために使う = 使途の限定

に対して

こども園から得られた利益をこども園や児童福祉とは全く関係ないその会社の事業に使うのを許可する = 使途の非限定

ということです。


このことは認証保育所ではすでに起こっています。
東京都など一部自治体で設置されている認証保育所は、公益法人ではなく民間業者の参入が自由です。
なので一見表向きはわかりませんが、経営母体はガソリンスタンドだったり料理屋だったりということがあります。
それらが認証保育所であがった利益を、経営母体の収支に組み込んだり、そのお金で例えばもう一軒ガソリンスタンドを作るのも自由なのです。現にそれを行っているところはすでにあります。

この事が必然的に導き出すのは、保育内容の質の低下です。
上げた収益をいかようにも使えるとなると、経費を切り詰めて収益をあげることに直結するでしょう。
補助金+利用料 で歳入の上限が決まってしまうこういった施設では、経費を切り詰める事が収益向上の近道だからです。

質が低いところは淘汰されるからそうはならないと行政はいいますが、待機児童が多いところなどでは背に腹は返られないと質が低くても預けざるを得ない状況に利用者はなってしまうでしょう。
また、保育の質というのは部外者や保育のことについて詳しくない一般の人から見れば判断することは非常に難しいことでもあります。


営利企業が経営している認証保育所であった話。

その認証保育所を経営している会社の本業は、ある物を売っているお店です。
認証保育所施設の一部でそのお店も開いています。
その担当の職員は建前上認証保育所の職員の1人ということになっていますが、保育関係の仕事にはたずさわっていません。

つまり、職員数を一人ごまかしています。
また、本来保育の床面積として認定にあたり申請しているその店舗スペースも、子供のためには使っていないので、床面積もごまかしているということになります。

そしてそのお店は認証保育所の監査のはいるときには跡形もなく片付けられます。
抜き打ちの監査というのはないので実態は行政にはわかりません。
またわかったところでどうもしないのが実情でしょう。
保育の内容までの監査はほとんどしないからです。
基本的に帳簿上のお金の監査中心なのです。

さてこの施設は子供のためにいい保育をできているでしょうか・・・。
まあ、押して知るべしです。
経験のあるベテランを雇うよりも、新卒の資格だけの保育士を雇った方がはるかに賃金を安く出来ますしね。もちろん若い保育士が良くないというつもりはありませんが、経験がとても重要になる仕事ですので、そればかりではやはり影響があるでしょう。
またその賃金すら、普通の仕事に較べればずいぶん低いものです。

うちの近所のスーパーのレジ打ちの自給が1100円くらいだったのに対して、そのスーパーの目の前にある認証保育所のパートの自給は850円、保育士の有資格者で900円でした。
ちなみに東京都の定める最低賃金は799円です。

仮にも国家試験を通らないとならない資格の仕事が、スーパーのレジの自給にかないません。
最低賃金から数十円多いだけです。
なんとも悲しい現実です。


話がずれてしまいましたが、この不透明な検討会議の記録からはこの収益の使途の限定がどうなってしまったのか見えません。

根本的に子供の受け皿を行政の負担で作りたくない国側の思惑が、収益をエサに民間企業の参入をこども園に呼び込もうとしているのですから、おそらくこの点に関しては自由化の方に傾くでしょう。
というより、これをしたいのがこの法案の、政治家・行政の最大の理由といえます。
だからその方向に持っていかないわけはないと考えられるのです。

1月24日の保育園関連の団体・幼稚園関連の団体の反対を見てもそのことが推測されます。

認証保育所という前例もすでにあるので、国がこれをためらわないのは容易に考えられる事です。




先の動画の「ほいくせいど(認定されても…編)」を見ると「あなたは給食はなしで午後から4時間だけの保育になります」という場面がでてきます。もしこれが本当に現実となってしまうのならば、保育士である僕から言わせてもらうと、ここで出来ることは「保育」でなく「子守り」にすぎなくなってしまうでしょう。

「人間・人格を育ててきた保育」というものから、単にその時間だけお金をもらって預かるだけの「子守り」としての仕事以上のものはできなくなってしまうことになると言えます。

国としては待機児さえ解消できて、働きに出る人が増え、税収が増加してくれるならばそれでもいいと考えているのでしょう。

もし本当にそうならば、日本の政治家・役人はあまりに浅はかであるといわざるをえません。
なぜならば、それで大失敗している国がすでにあるからです。

長くなりましたので続きはまたの機会に。


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● COMMENT ●

政治家は何を考えてるんですかね?

>国としては待機児さえ解消できて、働きに出る人が増え、税収が増加してくれるならばそれでもいいと考えているのでしょう。

私もそう思えてなりません。何て場当たり的な考えでしょうか。こども手当てなんかで、分かりやすい餌を蒔いて、裏でこんなことをしてるなんて。

ゆとり教育で、義務教育の質を下げ、今度は子ども園で、乳幼児の人格形成までむちゃくちゃにする気でしょうか?これでは、20年、30年先の日本はどうなってしまうんでしょう?人を育てる事を真剣に考えず、目先の経済ばかりを気にしてどうなるんでしょう?

こんな国の陰謀に利用されたくないので、私は、専業主婦ですが、意地でも働きたくないです。と、過激発言をしたくなります。

そして、当分働く気のない私は、息子を幼稚園に入れたいのですが、すべてがこども園になってしまったら不安です。実際、私が住む団地に認定こども園がありますが、幼稚園の子と保育園の子のクラスを一緒にしていた運営に行き詰まり、今年からクラスを分けると聞きました。やはり、一緒にしたのは無理があったのではないでしょうか?

そして、認証保育所の時給に愕然としました。それでは、質の高い保育士が増えるはずがありません。子育てを始めて、乳幼児期は、人間の土台部分を作る本当に本当に大切な時期だと実感しています。ですので、そこに関わる保育士なり幼稚園教諭の質の高さはとても重要であって、大学教授くらいお給料よくて、社会的ステータスも高くてもいいはずだと思います。

でも、持論を言わせてもらえば、三歳くらいまでは、母親が質の高い保育をするのが一番だと思うんですよね。マンツーマンに勝るものはないし。だから、おとーちゃんみたいな人が母親を教育してくれるような母親学校みたいなのができればいいのになあ。あ、このブログが通信教育ですね!


kyomiuさん

保育士の待遇に関しては保育業界のあり方自体に問題があるところも多々あるので、一概にはいえないんですよね。
実際、一口に保育士・保育園といったってその質の差は驚くほど大きいですし・・。
正直、保育士として同じ保育士がひどい保育をしているのをみるとやるせないきもちになります。

子育てってその人その人の育ちが密接に関わってくるので、一朝一夕には変えられない難しいところがあるんですよね。

無題

こんばんは、いつも拝読させて頂いております。

一点だけ指摘差し上げたい箇所が・・・
当方、勤務経験者ですがスーパーのレジうちの時給はそんなに高くないです。
あったとしてもそんなに(店舗数が)多くないと思います。

深夜帯でも無い限り1100円などという破格値は私の周りでは聞いたことがありません。

成人で、日中ですと800円台、安くて700円台くらいが相場だと思います。

保育士の時給がレジうちより安い・・・との事ですがあれはあれで大変な仕事ですよ。
ずーっと同じ事やってて楽そうだなどと思われがちですが、ひとつひとつ心込めてやってるとこれがなかなか大変な仕事。
個人的には子供の相手の方がまだまだ可愛げありますね。
大の大人が万引きだクレーマーだって、クレイジーな世界ですから。

私は心労で身体壊しました(^_^;)

通りすがりさんへ

保育士の時給もいろいろです。
私は、「東海道新幹線こだま」しか止まらない程度の地方都市在住ですが、企業内や病院内託児施設が募集しているパート保育士の求人が800円~/h.、認可外だと900円~/h.の求人が主流。時給四ケタは見たことありません。

うちの近所のコンビニチェーン店は960円~/h.で求人広告だしてますから、私の町でお金儲けを目的にパートをするのならば、保育士はけっしてよい仕事じゃないです。

でも私は860円/h.でパート保育士しています。

「こどもが好き」というところにつけ込まれ、労働力を搾取されているなあと常々実感しています。

ご参考までに書き込みました。


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楽しく無理のない子育てを広めたいと2009年ブログ開設。多くの方の応援があって著作の出版や講演活動をするようになりました。 現在は、子育て講演や保育士セミナーの他、『たまひよ』や『AERA with Baby 』等の子育て雑誌の監修やコラム執筆。『ジョブデポ保育士』の監修や育児相談などをいたしております。

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