受容にどれだけの意味があるか ~事例より~ Vol.2 - 2011.08.09 Tue
しかし、ここでこの子へのアプローチは終わりではありません。
ここで安心してしまっては、まただんだんと情緒の安定を欠いていき再び元のようになってしまいます。当然これからも保育のなかで注意深く見守り、認め、受け止めていくのですが、再度ここで親へのアプローチをしていかなければなりません。
なぜなら、保育士がどんなに温かく見守り、優しく受け止めていったとしても、この子が本当に望んでいるのはそれを母親からしてもらうことだからです。
たとえどんなに淡白な親であっても、虐待をしている親であったとしても子供が望むのは自分の親からの関わりなのです。
保育士が10の努力が必要なことが、親であれば1の労力で子供に満足を与えられるでしょう。
それゆえに保育士がどれだけがんばったとしても、そこで得られた安定というのは一過性のものに過ぎません。
ある程度状態が安定してきたところで、母親にその子のよいところを知らせるなどして、少しでも肯定的な関わりをしてもらえるように働きかけていく必要があります。
安定する以前の状態ではいくら親に働きかけたところで、子供のネガティブな側面ばかり親の目に入ってしまい、こういうタイプの親では肯定的・受容的な関わりを引き出すことは難しいからです。
そこである程度様子が落ち着いてきてから、親に子供をほめたり出来たことをしらせたりして、その子供のことをポジティブに受け止められることをたくさん投げかけていくわけです。
ときにはどんな小さいことでも親からのよい関わりをほめ、「お母さんが○○してくれたから、お子さんがいい姿を見せるようになったね」とその親自身も肯定していきます。
自分の子供に関心が低かったり、虐待、ネグレクトなどしている親であっても、我が子をほめられたり、自分を認めてもらうのはたいていの人にとってはいいものです。
誇張してでも子供の良いところを見えるようにしていってあげることで、親からの子供への関わりが多少なりともポジティブになっていき、だんだんと子供の姿をよい方へともっていくことができます。
しかし、中には親自身の自己肯定感が低く、我が子をほめられてもプラスにとれないという人もいるので、そういった場合はさらに根気づよく対応していく必要があります。
ただ実際には、子供へのアプローチだけならば保育士としてどうとでもなるのですが、親へのアプローチが必ずしもうまくいくとは限りません。
もともと子供への関心が低かったり、仕事や自分の趣味の方を重視していたり、「子供をどうしたい」というビジョンが強すぎたり、家庭や仕事、金銭的な問題などを抱えていたりなどなど、様々な背景があり子供を持続的に安定させることにつながらないケースも少なくありません。
その場合そういったアプローチを続けつつも、できる限り保育士が受け止めていきます。
それでなんとか安定して過ごせていくこともありますが、やはり本当に望んでいるのは親からの肯定的・受容的な関わりですから残念ながら十分ではないことも多いです。
それでも子供は育たないかというと必ずしもそんなことはなく、いろいろなところで自分でバランスをとったり(それが例えネガティブな関わりを引き出すことだったりしても)しつつも育っていきます。
親からの関わりはその後も変わらず淡白だったりしても、友達や仲間・学校の先生などに恵まれて後々「ああ、よかったな~」と思えるように育っている子もいるし、中にはその後もそういった受容不足・自己肯定感の低さの影響をひきずって「ああ、あのときもっとどうにかしておけば・・」「なんとしてでも親に対応の改善を訴えておけば・・」ということも現実にあります。
保育士としては運にまかせて後々まで問題を持ち越すよりも、小さいうちに見えている部分はなんとかいいほうへ向けてあげたいというのが想いです。
今回の事例でみたようなのはやや極端な例ではありますが、こういうケースは今は少なくありません。
というよりもむしろ、現代の子育てのひとつの典型であるといってもいいでしょう。
正直に言ってクラスの中にこういった子が何人もいるということが普通です。
大部分の子がこうした受容不足におちいっている子ばかりということすらあります。
社会・文化のありかた、子供への考え方・・・様々な問題が背景になって現代の子育てではいやおうなしに子供のこういった姿は増えています。
僕が「しつけ」や「叩いて育てる」子育てに賛成できないのもひとつにはここに原因があります。
受容が不十分で、さまざまな親から快く思われない姿をだしている子供に対して、「押さえつける」「矯正する」といった方向へもってっていってしまう「しつけ」では子供の姿をよくすることに必ずしもつながらないからです。
別に本来子供が必要とするそういった「受容」や『乳児の遊び・関わり Vol.9 これまでのまとめみたいなもの』で書いたような基礎的なことが子供になされているのならば、いわゆる「しつけ」の子育てをしても特に問題はないのです。
しかし、さまざまな要因からそういった育ちの基盤となる乳児期に本当に必要なものが与えられずに、「しつけ」という抑圧的な関わりがなされてしまうことに大きな懸念があるわけです。
ですがまだまだそういった「しつけ」の子育てを、育児中の親に、そして子供に望む人は現実にたくさんいます。
だからこそ、子育ての中での「受容」の大切さに多くの方に知ってもらいたいと思っています。
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● COMMENT ●
自己肯定って大事ですね
みかさん
気持ちが荒れてしまってかみつきをしようとする子に、「そんなことしなくてもいいんだよ、ちゃんと見ていてあげるからね」と優しく声をかけて、笑顔でおでことおでこをくっつけてあげたり、抱っこして歌を歌ってあげたりするだけで、その子は噛み付きをせずに過ごすことができたりします。
根本的な解決ではないのでそのよい状態が続くのは長くないかもしれませんが、そういうことを積み重ねていけば子供は確実に変わります。
きっとそれだけ子供は大人のことを頼りにしている・信頼したいと思っているのでしょうね。
再開助かります。
再開ありがとうございます。
もうすぐ2歳になる息子が最近、「イヤ・イヤ!」をよく言い始めたので、
おとーちゃん日記を参考にでも・・・っと開いてみたところ
再開に気がつきました。
楽しい子育てができるよう、このHPで勉強させてもらっています。
No title
6歳と2歳の娘がいます。
お姉ちゃんは先天的病気もあって、精神発達もゆっくりです。(今3歳位の発達です)
そういうこともあってか、とにかく、下の子と私の取り合いが凄いのです。
「甘えさせ、甘やかし」のキーワードからこちらのホームページにたどり着き、ここ数日読ませて頂いております。
お姉ちゃんの気性はかなり激しく、どうしてもこちらも、イライラ頭に血がのっぼってしまうことも多く、子供の人格を無視した言葉遣いで怒ってしまう日々が続き、このままではこの子の将来が恐ろしいと思うようになりました。
それをみている下の子にも、どんなにか悪い影響を与えているか。
お姉ちゃんは「ママは自分のもの」といって、下の子が私にくっついていると、たたいたり、つねったり、髪をひっぱりったりして、おしのけてしまいます。抱っこ~とせがまれ否定していることも多かったのですが、
もっと要求にこたえてあげたほうがいいのかなと思い、なるべく抱いてあげていたら、それがエスカレートしてしまったようにも感じます。
お姉ちゃんは入院生活がながかったり、自由にならないことも多く、幼稚園や保育園にも正式には入園できず、お友達もいません。本人自身のストレスもかなりあると思います。
「しつけ」生活習慣や世の中のルール、子供に伝え、身につけていくにはどうしたらよいか、やって良いこと・いけないこと、甘えさせてあげるのと・甘やかし等、いろいろな境界が分からなくて、結局、日々怒って終わってしまいます。
こちらのおとーちゃん日記を読んでいたら、自分にも取り入れられることがあるのではないか、と思えることもあります。もっと子供達が赤ちゃんのうちに出会えていたらなと思うこともあります。
これからも参考にさせて頂きます。
このページに対してのコメントと違ってしまって申し訳ありません。
ゆうかさん
でもそうはいっても実際には大変なこともたくさんありますよね。
イライラしたり、怒ってしまうこともありますよ。親だって人間だものね。
そういうことがあってもいいんだと思います。そういうふうになってしまったら後でフォローをすれば子供は大丈夫ですよ。
基本はやっぱり「肯定」です。
「かわいいね」「大好きだよ」というのも肯定だし。
「○○が上手だね」というのもやっぱり肯定。
子供に限らず、肯定をたくさんされると人は自信をもてます。
自信がたっぷりできると、心に余裕がもてるようになるのでネガティブなことって減っていけますよ。
そうやって子供に自信をつけてあげるようにすると、子育てはとってもたのしくなります。
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自分自身、自己肯定ができにくいと最近気付いたからです。
子どもには、そんな寂しさや生きにくさをしてもらいたっくないと、
受容を意識しているつもりですが、難しいですね...
1週間で安定という変化が見られたとVol.1で書かれていたので
驚きました。 1週間で、かなり短時間で安定を少しだとしても
取り戻せるんですね。
子どもの柔軟さに驚きました。
許すことの受容力は、大人より子どものほうがずっとすぐれているのかもしれませんね。記事を書いてくださり、ありがとうございます。