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2024-04

子供の人権 Vol.3 二義的な「子供の人権」 - 2011.09.08 Thu

次に二義的な意味での「子供の権利」ですが、日本ではこちらの方がより「子供の権利」としての実感があるかもしれません。

先にあげたような、生存権や保護される権利、教育を受ける権利などは日本ではすでに憲法や児童法などで規定されているからです。また、文化的にもそういったことはかなり以前から当然と考えられてきた歴史的経緯があります。

それもあってか、日本は当初『世界子供の権利条約』の批准に前向きではありませんでした。
はっきり言ってしぶっていたのですが、世界との協調の観点からずいぶんと他の先進国に遅れて批准することになりました。
前向きでなかった理由には、いまでも親権に子供の「懲罰権」などが含まれているように、日本でも子供は親の従属物という考え方も根強く、あまり子供を押し上げるようなことに賛同できない文化的な側面があったのかもしれません。


では、二義的な意味での子供の人権とはなにか?





Vol.1で「子供を子供扱いしない」ことと述べましたが、こちらは一義的な意味での「子供の人権」に較べると、高度で文明的、先進的な意味合いでの「人権」と言ってもいいかと思います。

一義的には子供は「子供扱い」されなければなりません。それは前々回みたとおりとても大切なことです。

しかし、一方で文化が成熟してきたりすると、逆に「子供扱いしすぎる」ことが子供の人権を損なうこととなってしまうこともあります。


たとえば、『子供の権利条約』のなかには『参加する権利』や『子供の意見表明権』というものがあります。

子供だからといって大人の言いなりになるべき存在であるか、というと必ずしもそうではなくて、子供一人一人にもきちんと自分の意志、思い、意見、主張を表す権利があります。

ずいぶん前になりますが日本でも、これを根拠法としてたしか中学生が学則(髪型の強制など)が不当だと裁判を起こした実例があります。
条約は批准されると国内でも法律に準じたものとなりますので、裁判での根拠ともなります。



子供扱いしすぎることなく、一個の人間・人格として扱い、大人だからといってやたらと子供の個人の尊厳を損なったり傷つけてはならないということです。

保育や子育ての中で考える『子供の人権』の必要性はまさにここにあります。


ともすると、もともとの日本の子育て文化では「大人の下位に子供が存在する」という位置づけが濃厚にありました。

子供に対してでなく大人に対してであっても、日本では個性を尊重するといった文化は希薄といえるでしょう。また個人よりも集団・協調を重んじるという風もあります。

そのような中では、ことさら子供を低く扱っているつもりはなくとも、「子供だから」「子供なので」と子供を無自覚的に尊重せずにすごしてしまうことが当然でてきてしまいます。
そこをきちんとした「子供の人権」の意識を持つことで是正していかなければなりません。


また、人権についての意識を変えることは、実際にものごとを変えることにつながっていくのだろうか?と疑問をもつかもしれません。

実はこのようなことは身近で数限りなく起こっているのです。


ほんの少しだけ例をあげましょう。

たとえば医療の現場で、かつて癌などの病気で余命宣告するばあい、本人に直接知らせずまず家族に知らせ、その上で家族が本人に知らせないと判断した場合、医者も本人に通知することをしませんでした。

今はどうでしょうか。
場合によってはそういうこともあるかもしれませんが、いまでは本人に通知することが基本となっています。
かつては、その本人=個人の権利よりも、家族=家の存在の方を重視していたということです。
それが個人の自己決定権を重んじるように人権意識が変わってきたために変化してきたといえます。


今度は子供の人権意識の変化をみてみましょう。
NHKの子供番組の中のいちコーナーでパジャマに着替えるものが昔からいままで続いています。

かつては男女ともパンツだけはいた状態から、パジャマを着ていました。
今は違います。
男女ともパンツだけでなく上のシャツも着た状態からパジャマを着始めます。
子供だからという理由で裸を人に見せるのはその個人の尊厳をそこなうことだからです。

小学校などでも、いまは子供を「さん」づけで呼ぶようになりましたね。
男女同権意識からもそうなのですが、個々人を尊重する意味でも名前を呼び捨てにしたりせずに敬称をつけるて呼ぶことをしているわけです。

だけど「さん」をつけて呼ぶべきといわれてただ「さん」をつけているだけでは、本当はなんにもならないのです。
きちんと子供であっても個人の人格を尊重する気持ちが必要なのですが、今だに形だけで中身がともなっていないのもたくさんあるのは残念なことです。


このように人権意識の変化から変わってきた物事はたくさんあります。

保育のなか、普段の子供との関わりのなかで変わってくることはさらに枚挙に暇がありません。
子供の人権に留意することは、それこそ言葉がけひとつひとつから変わってくることがたくさんあります。


以前紹介した「リフト」をして子供をモノ扱いしてしまうことなども実は保育の中でたくさん行われてきていました。

ある保育園では、乳児の水遊びをコの字型をしたスロープを下ったところでしていました。
しかし水遊びをするときに、近いからとスロープをくだらずに壁越しに子供を持ち上げて下にいる職員に子供を受け渡してしまいます。

子供はものを言いませんし、そうされてイヤと感じているわけではないかもしれません。
でもそれは、大人の都合で楽なやりかたをしてしまっているわけです。

別に虐待しているわけではありません。しかし、大人の都合で子供をいいように扱ってしまうことを一つ許してしまえば、ほかにもたくさんの子供を無視した大人の都合のいい保育をしていくことになります。
そのなかで本当に個々の子供をしっかり見据えた質の高い保育が展開できるわけはありません。

今の保育の現場ではこういったことが、あまりにも当たり前に行われてきているのでそれをおかしいと思う職員すらいないところがたくさんあることでしょう。

だからこそ、きちんとした『子供への視点』『子共観』が必要なのです。


別にあえて気にする必要もないことなのかもしれませんが、僕は「おいで」と子供に呼びかけないようにしています。

「おいで~」と言うのは、子供を呼びかけるのにあたりが柔らかくてあたたかみのある言い方なのですが、子供を従属的にあつかってしまっているようで僕は保育を仕事とするものの心構えとして使わないようにしています。

こどもを「おいで」と呼びかけていると、子供も大人に「おいで」と呼びかけるようになります。
しかし中には、子供が大人をそう呼ぶのはおかしいと言い直させる人がいます。
これも変な話です。
大人が呼ばれて困る言い方ならば、子供にも初めからしなければいいのです。

おそらく前提として大人が上で子供が下という構造があるからそうなるのだと思いますが、大人が上で子供が下という前提で保育をしていくと、どんどん大人中心の保育になっていってしまいます。

その保育を続けていると個々の子供をきちんとみず、ケアしきれない、援助しきれない子供をたくさんつくっていくことになるでしょう。

かつての保育はそれでも済みました。
いまほど養育上の問題は多くなかったですし、多くの場合問題も単純でしたので。

しかし、もうすでにそれでは済まない状況になってきています。

集団や協調を上位においたり、型にはめるような、大人の理屈を押し付けるような保育を展開していては、多くの子供に適切な援助をすることはできなくなっています。

本当はいまこそ保育の質の向上を図らねばならないのです。
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● COMMENT ●

No title

いつもブログを読んで、とても勉強させて頂いてます。
どうすればいいかわからない時、何度も読んで救われた気になりました。

どうぞ相談させてください。
二歳児の娘、今日午前中は子育てサロンへ遊びに行き、
昼寝を夕方になってもしないので、もう諦めようと台所に立ち、用事を済ませた後、
いけないと何度も言っていた事(おもちゃの鉄琴を外す、破壊、本を破く)などしてると
怒りが抑えられず、大きな声で怒鳴ってしまいます。
その後はテレビの配線を抜こうとする。
一言言ってすっとやめる事も多いのですがこの時ばかりはなかなかやめず。

台所に立つ時、話しかけたりはしているのですが、
一人で遊ぶのが飽きたのかもしれませんし、寂しかったり
ほんのいたずらのつもりでしょう…

たたくのは避けたいのでぐっと堪えますが、怒鳴り、物にあたったり、
半笑いの子供を振り払ったり突き放したり…つい汚い言葉が出てしまい、
気が重くなり無視する時間があります。
「親父に面倒みてもらえ!」「叩かれないとわからんのか!」
「アホやからわからんのか!アホに買うおもちゃはない!」など…
きっと汚い言葉を使う、腹が立ったら物にあたる、そんな子になるんだと思います。
もちろんそうさせたくはないのです。
感情を押さえるように、しばらく目も合わせたくなくなるのです。
それでもしばらくよってくる娘を「あっち行って」「こなくていい」など
振り払っていると、寄ってこなくなり…
こんな小さい子に空気を読ませるなんて酷い親です。

「今から寝んでいい!起きろ!!」と夕方になって寝ようとする子を無理矢理起こしたり、
音楽を大きくかけたり。起きろ起きろ!!と揺すってましたが寝てしまいました。
夕飯も入浴も遅れ、また昨日のように寝付くのが11時過ぎ、
そこから後片付けかと思うと腹が立ち、
これもこちらの勝手な言い分なんですが…

これ以上感情が暴走しそうで怖いです。
自分は病気だと思います。気がどうかしてると思います。
でもこんな親に育てられるのはかわいそう。
なんとかしたいです。
最近平和に過ごす日が増えた気がしますが、時々こういう事があると、
ど~んとノイローゼ状態に落ちてしまい…


子供の精神に大きな傷を付けていっていると思います。
今まで何度もこんな事があったので、一週間前は一人ひどく反省し、
もう二度と感情的になるのはやめようと誓ったところでした。

平日はずっと二人なので、この子の人格を歪ませないように
なんとか抜け出したい。
どうぞアドバイスをお願い致します。

cocomiさん

僕の友人で女の子が生まれ母親になったひとがいました。
その人は保育士なのですが、子供をきちんとみることのできる保育士としてもとても上手なひとでした。
性格も穏やかでしっかりしている人だったのですが、子供がやや癇癖のある子でとてもイライラさせられることがおおく、暴言を言ってしまったり、物にあたったりするようになってしまいました。
叩くことだけはなんとかタバコを吸ったりしてイライラを抑えてがまんしたそうです。

こんなことを書いて何が言いたいかといいますと。
この人は保育士としての十分な経験もあり、どんなキーキーしている子にでも笑顔で対応のできる人です。しかしそのような人ですら、我が子の子育て一対一の子育てになるとそうなってしまうこともあるのです。
つまりは誰にでもcocomiさんが陥ってしまうようなことになる可能性はあるわけです。

だからどうか自分を責めないようにしてください。cocomiさんが自分をせめていってしまうと、子供にもそれは伝わっていい影響にはなりませんし、それこそ子育てノイローゼのようにもなりかねません。

もちろんいまの状態のままでいいと思っているわけではないのはわかります。
しかし、それを否定するのではなく今ある状態を認めそこからひとつひとつ出来るところから問題を解決していくのが大切です。

もしご自分が精神的に不安定になってしまっている、病気のような状態になってしまっていると思うのであれば、医者などしかるべき専門的な対応をしてもらってその状態をなおしていきましょう。

また、子供をずっと見続けるストレスというのはとても大きなものです。
成長期にあるこどもであればなおさらです。
できうるならば、ご主人やご家族などと相談してすこしでも子供をみてもらい、cocomiさん自身がリフレッシュできる時間がもつのもいいと思います。

保健所など自治体で育児相談なども適時実施していますので、話をきいてもらったり、相談にのってもらうのもいいかもしれません。

また、公立の保育園などで一時保育など実施しているところも最近はありますので、そういったところを利用して息抜きをするのも手です。

cocomiさんがお子さんのことを大切にしていないとか、可愛がっていないというのでないことはよくわかります。
ただ、今の状態ではその責任とか重圧がcocomiさんにとって大きくなりすぎてしまっているだけです。
子育てはけっして一人だけで出来るものではありません。なんらかの方法でその責任を分散していくのがいいですよ。

また成長期の子供の様子は適切に対応しさえすれば、それがずっと続くものではありません。
今の時期特有のものです。だから今の子供の出している様子だけで子育て全般を不安に思うこともないですからね。

No title

お返事をいただきありがとうございました。
お忙しい中すみません。
頭の中が真っ暗で一人でどうする事もできず、
見知らぬ「おとーちゃんさん」に、感情のままを綴ってしまっていました。
この日ばかりはいつも終電帰りの忙しい主人に夜9時頃メールをしましたが、急いで電話をくれたものの仕事が大変らしく…涙が止まらずでした。
翌日主人と子供と三人で出かけ、翌々日は主人に任せて一人で外出させてもらい、嘘のように気持ちが楽になりました。

しかし、娘が何もなかったかのように、可愛く自分に寄ってきてくれるのがとても心苦しかったです。
もうあんな事は二度としたくありません。

あの日、娘が起きた時、何とか切り替えようと抱こうとしましたが、退きながら激しく泣いてしまい…しばらく近づく事ができず、恐ろしいと思いました。
辛くてベランダに出て時間を置き、何とか抱っこして落ち着かせ、ご飯とお風呂を済ませる事ができましたが…
取り返しのつかない事にならないように、後悔しない育児をしたいです。

以前体験教室で娘がとても楽しそうだったので、月3回の音楽教室を申し込み、ママ友に聞いた赤ちゃんリズム体操の体験に行くつもりです。一時保育の見学にも行こうと思います。
週1~2回の保育園、子供は馴染めるものでしょうか?

おとーちゃんさんに寄せられるメールは、
大変な数だと思いますが、ご丁寧にお返事いただき
ありがとうございました。

これから前向きに育児をして行こうと勇気が出ました。

cocomi さん

理解のあるご主人でほんとによかったですね。

子育てをしているといろいろな状況に陥ることがどうしてもあります。
そんなときはできることからちょっとずつでも取り組んでいくのが一番だと思います。
無理しないでいってくださいね。これから子育てが楽しんでいけるようになることを祈っています。

子供というのは基本的にはとても順応性に優れていますので、親元からはなれてもきちんとやっていけるものです。
ですが、頑張ってしまう分反動もあるはずです。あずけたり、離れて過ごしたときはその分フォローしてあげることを忘れないでいるといいかと思います。

それは習い事等も同様です。楽しんで行っているように見えても、頑張ってしまうことで精神的に疲れたり、ふと寂しさを感じてそれを親にぶつけたりということも自然にあることです。
もし、そういう姿があったら「ああこれがそういうことなんだな」と受け止めて上げてください、びっくりしてパニックにならないようにね。

ですので子供にも無理をさせすぎることのないよう、様子を見ながらやっていくのがいいかと思います。

コメント頂いてたんですね

気づかずに申し訳ありません。
本当にありがとうございました。
読んで少し涙が出ました。
自分本位な面があるから、家事をしてる間に悪さをしたり、
なかなか寝ないなど、邪魔をされた気持ちが
強くなるんだと思います。
もっと大きな器の母親になれるようになりたいです。


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楽しく無理のない子育てを広めたいと2009年ブログ開設。多くの方の応援があって著作の出版や講演活動をするようになりました。 現在は、子育て講演や保育士セミナーの他、『たまひよ』や『AERA with Baby 』等の子育て雑誌の監修やコラム執筆。『ジョブデポ保育士』の監修や育児相談などをいたしております。

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