保育の質 Vol.1 - 2011.09.14 Wed
保育の基準であげられる床面積や人員配置などの制度・運営上のこと、営利・非営利など各経営母体の差による保育の質の違いなどもそうなのですが、ここでは子供の人権からみてきたように、実際上の子供との関わり、日々の保育のあり方ということを中心に考えていきたいと思います。
それというのも、一口に保育園といってもその保育の質のばらつきにはとても大きなものがあるからです。
そのなかには古い考え方のままで、現在の社会・子供たちのあり方にそぐわなくなっているものもあります。
しかし、保育園というのはある面、他からの影響を受けない、もしくは積極的に知ろうとしない閉鎖的な面もあります。
それゆえ子供たちへのアプローチの仕方が現実に対応できなくなっていることがあったり、またそういうことに気づいていないことすらあるのです。そして残念なことにそれはあまりにも多いのです・・・。
今すでに政治的な影響で、これまであった非営利の福祉としての位置づけの「保育」が営利の対象となりさらにその動きは拡大しようとしています。
その動きはいやおうなしに保育の質の低下を招くでしょう。
そのような時だからこそ、保育には「質」があり、単に見えるところの便利さだけでなくよりよい質の保育のあることを知って欲しいのです。
また、保育をしているところや、保育に従事する人には保育の質を向上させることを求めて欲しいと思うのです。
ただ、すべてのことをあげて指摘できるわけでもありませんので、いくつかの例をあげることで保育の質を考える契機にしていきたいと思います。
その質を考える根本的な基盤は、前回までにみてきたように「子供の人権」など明確な「子共観」にあるでしょう。
保育上のたくさんの問題点をあげるかもしれませんが、批判することが目的なのではなく客観的に保育を見直しよりよいものにしていくきっかけになってくれればいいと考えています。
保育園の設置の大元になっているのは「児童福祉法」です。
この法律はもともと、第二次世界大戦後の戦災孤児の収容を目的として設けられたものでした。
これにより乳児院や養護施設などが設けられ、保育園もその流れの上で整備されてきました。
まだ日本は経済的に裕福ではなかったので、それら施設も効率を重視したものとなりがちでした。
ひらたくいってしまえば、喰うだけで精一杯という時代に応じた施設だったのです。
児童福祉法の管轄ではありませんが、小学校のときの給食を思い出してもらえばよくわかるかと思います。
僕が小学生だったとき、給食の食器はアルマイトと呼ばれる合金製のものでベコベコにゆがんでおり、食べるのは先割れスプーンでした。
途中から、米飯食や箸がだんだんと取り入れられるようになってきました。
いまでは郷土の食文化を反映した献立などが各地でとりいれられているようですね。
食器も陶磁器のきちんとしたものを使うのが一般的になってきたのです。
これはまさに子供を単に食べさせればいい存在から、食文化を伝えるべき存在と見直し、その質の向上を少しずつ図ってきたことと言えるでしょう。
話がずれましたが、戻ります。
そういった状況の中からより良い質のものを目指そうとする動きがありました。
・施設的から家庭的へ
・大人中心から子供中心へ
・集団から個別へ
・一斉保育中心から自由保育へ
などなどの考えが時代を追ってでてきたといえます。
しかしこういった動きは、先の給食のこととはちがって、業界全体のものとはなりえませんでした。
保育理念や謳い文句のなかでは、「ひとりひとりを大切にする」などと書いてあっても、その本当の意味を追求せず、無自覚的に大人中心であったり、施設的な扱いをそのまま続けているところも少なくありません。
いまだに集団での協調を上位において、子供を型にはめるような保育をしていては、その保育の仕方・考え方ゆえに、特定の子の育ちをとりこぼしてしまったり、問題児のレッテルを貼ることで適切な援助をしなくなってしまったりということがあります。
保育のあり方としてそれは正しいでしょうか?
保育園は子供に点数をつけるところではありません。
出来る子が良く、出来ない子が悪いということはないのです。
どんな子にもその子に応じた必要な援助が受けられるべきです。
そういったことも踏まえて保育の質について考えていきます。
長くなってしまいましたが、ここまでが前置きです。
次回から事例を参考に、具体的な保育の質のあり方を見ていきたいと思います。
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● COMMENT ●
No title
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ずっとこのような記事をまっておりました。
私事なんですが、相談させてください。
5月で2歳になった娘を1歳児(4月2日付)クラスで保育園に通わせています。女の子なのでなんでも出来ることが早く、少し1歳児では物足りないのかな。と疑問を抱きながらも、本人は毎日楽しそうに保育園へ通っています。
私たちは3人家族で、頼れるような祖父母、親戚は年に二回会えればいいくらい遠くに住んでいます。平日、主人の帰りは遅く娘とは週末に会えるくらいです。2年間、母子家庭のように過ごしてきて今年から、私も働いて娘を保育園に入れました。
二人で過ごした時とは違って活発な娘は、保育園で覚えてきた歌を歌ったり踊ったりと成長が見えます。
たくさんの大人・子供の中で育つ(私の場合は保育園)環境もいいな。と思いながら、見えない保育園の内情ってどんなものだろう。と考えたりします。子供には母娘2人の生活(勿論、子育て広場やママ友とも時々遊んでいます。)がいいのか、楽しんでいる保育園にそのまま通わすことどちらがベターなんでしょうか。2人の時間が多かったせいか少し語彙力が弱いような気がします。
長文失礼します。ご意見お願いします。
公園で知らない子供と祖父母が遊ぶ姿を見ながら、羨ましく思い、そのようなことをしてあげられないため愛情は勿論、精一杯、娘にしてあげられることを模索しています。
ひかり さん
残念なことにいたって真面目に保育に取り組んでいるところでも、保育園の閉鎖性、問題意識の低さなどから、そういった視点が古いままのところは数多く存在します。
かつてはそのように戸外で丸裸になったり、着替えをしたりということが普通に行われていました。
そしていまだにそれが当たり前のこととしてやっているところもあるのです。
もちろんそうでなくなったところもあります。
ですが、子供も大人と同じ同等のものと考える人権に留意した視点を持つようになってきたところは、施設の制約上プールのときなど戸外でしか着替えの場所がなかったりする場合は、周囲から見えないような配慮をするなどしてきました。
その保育園はいい保育をしているのかもしれませんが、そういった視点がまだ古いままだったのですね。
「大人がしないことを子供にもさせない」というのは難しいことでないのですが、ひかりさんがそれをおかしいと感じたように、本来ならば一般の人よりも子供のことをを重視しているはずの保育士が、子供に対する意識で一般の人に追い越されてしまっているわけです。
保育業界の体質の古さという問題が現れてしまっているといえるでしょう。
そういったところが少しでも改善されたらよいと思って今回のシリーズを書いているところです。
ふうりんさん
家庭でもきちんと適切にみれるのであればそれでいいのだし、必要があってあずけなければならないのならばあずけるのでもいいのです。
我が家は仕事の都合で上の子を1歳から5歳まで保育園にあずけましたが、下の子は家庭で見ていこうと思っています。
少なからぬ保育士にとって我が子を家庭で自分で見ていきたいというのは、ひとつの夢じゃないかと思います。
日本人は子供の育ちの上で「集団」に入れるというのを重視する人が多いので、「やっぱりはやくからあずけたほうがいいんでしょうか?」とよく聞かれますが、それに関してならばそんな必要はちっともありません。
集団で過ごすことが必要な社会性というものが芽生えてくるのが、だいたい3歳以降、本格化してくるのが4歳以降です。
幼稚園が3歳もしくは4歳からスタートするのもそれがひとつの理由です。
だからといって、3歳や4歳であずけなければならないかといえば、やはりそんなことはなくて別に家庭での人間関係がうまく出来ているならば、小学校から集団に入ったとしても別に問題はないのです。
あずける必要があるならあずけて、あずけることでなにか様子に変化がでてきたときはそれに対してフォローをしてあげればそれできちんと育っていけるとおもいますよ。
No title
にこにこママさん
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先日1歳8ヶ月の娘と一緒に、近所の保育園の園庭開放へ遊びに行ってきました。
園では運動会の練習をしており、1~2才児は、つい立てのような柵の内側でボール遊びや滑り台など、自由に遊んでいました。
先生は親切に対応してくださりとても好印象。
ところが1~2才児の食事時間になり、柵の中にいたこども達は先生のところへ駆け寄り、丸裸になってシャワー(ガーデニングで使うようなホースにシャワー口のついたもの)をかけられていました。
こども達は気持ち良さそうでしたが、私はちょっと抵抗を感じました。
保育園は狭い道路沿いに位置し、見ようと思えば見えると思うのですが。
おとーちゃんはどう思いますか。
こんなことはどこの保育園でも日常なのでしょうか。
私は娘を幼稚園に入れようと考え中なのですが、ちょっと最近起こった出来事だったので疑問に思ってしまいました。
もしよろしければお時間のあるときに宜しくお願いいたします。