遊べない子に遊ぶ力をつける その5 ―遊びの援助の内容 2― - 2013.04.30 Tue
大人との関わりを媒介として、遊びへの興味・関心を高め、また遊びの面白さを伝えていくことを目的としていく。
どのように関わるか、どこまで直接的な遊びの相手、遊びの介入、声かけをしていくかは、個々の子供に応じて変わってくる。
なにをしなければならない、なにをしてはいけないと難しく考えることもないが、少なくとも過干渉にならないようには気をつけたい。
・3歳3ヶ月(3歳児クラス) 男児 B君
遊び・生活ともに経験不足から幼いタイプ。
3歳児クラスに5月から途中入園してくるが、それまで家庭で過ごしており、そこでの親の関わりも「赤ちゃん扱い」のような過保護でかなりの経験不足になっていた。
加えて、早生れで月齢も低かった。
家庭での遊びはおもに公園などの外遊びが中心で、家にいるときはほとんどテレビやビデオなどを見て過ごしていたとのこと。
園では、自分の遊びたいものという明確な興味関心のある遊具をみつけられず、うろうろして他児の遊びに入ってはちょっかいを出したり、邪魔をしたりすることが遊びになってしまっていた。
また、幼いことから他児とのやりとりがうまくいかず、様子をみているだけではトラブルが増えるばかりになってしまう。
クラスのほかの子は、ままごとやお店屋さんごっこなどで他児と関わる遊びが多くなっている状況だったが、B君はまだそれ以前の段階にいるので、自分で取り組める遊び、ひとり遊びを中心に援助していった。
入園するまで、さまざまな遊具に触れて遊ぶという機会もあまりなかったということで、遊具を前にしてもどう遊んでいいかわからない状態にあった。
そこで、保育士は一緒に遊びをいちからやっていく段階から関わる。
積み木を積んで見せて一緒にそれをすることから始めた。
B君の場合は、おもに積み木のような机上遊びを中心に援助していった。
ブロックやレール遊びのような、床上で遊ぶような遊びは、落ち着きがないこと注意がいろいろなところにいってしまうことから、遊びに集中できない。
また、他児とのからみがでてくると、なにかとトラブルになったりするばかりで遊びどころではなくなってしまう。
それゆえに、他児からの干渉を防ぐ意味でも、机上遊びでできるだけ、保育士と一対一の状態での環境をつくり遊びに取り組む。
また、通常の3歳児クラスにあるような遊具よりも前の段階のもの(型はめパズルなど)も用意して、本児が無理なく興味をもち達成できるような遊びを提供していく。
そのように大人がそばについて遊びを見守っている分には遊具に集中して遊ぶのだが、大人が離れてしまうとすぐに周りの声や音、動きに気が惹かれ遊びが中断してしまう。
そのような様子であったが、断続的に遊びの相手や、相手をできないときでも「これをしてみようか」などとB君が遊び込めるような遊びを提供したり、他児とトラブルになりそうな状況では介入し、遊びに気持ちを向けなおすような関わりを積み重ねていく。
遊びの援助の取り組みを始めて3ヶ月くらい経過する頃には、自分で遊びを見つけ遊ぼうとする姿や、他児とともに遊ぶ遊具でもトラブルにならずに遊ぶことができるようになった。
また、月齢の近い子供とままごとをしたり、積極的に他者と関わる遊びも興味を示し、内容的には幼かったりもするがそれなりに遊べるようになってくる。
入園当初、排泄や衣服の着脱、食事の習慣などの生活面、他者との関わり・遊びなどの部分も、およそ実際の年齢よりも1年くらい前の段階にあった。
生活面・遊びともかなりきめ細かな対応が必要ではあったが、入園から6ヶ月を経過した11月ころには、排泄以外の部分はだいたい見守っていることで、自分でこなしたり、他児と歩調を合わせて行動できるだけの力がついていた。
排泄は9月のなか頃までまだおむつが必要な段階で、11月は移行中であった。その後ときどき失敗はあるものの、年内にはパンツへの移行が完了していた。
4歳児クラスに進級したときには、ほとんど手のかからない状態にまで成長していた。
ここからは感想なのだが、このB君に関しては、実にいいタイミングで入園してきたという印象だった。
もし4歳児クラスから入園してきたのでは、ここまできめ細かな対応というのはしきれなかっただろうし、かなりの過保護という状況でそこまで家庭で過ごしてからではその後の対応もさらに難しくなっていただろうと思う。
ただ、過保護ではあったが親は他児と比べたりすることのないおおらかなタイプ(遊べないことや排泄の自立が遅いことなどにもちっとも焦っていなかった)で、しっかりと可愛がられていたということはあったので、保育士との信頼関係を形成することになんの問題もなかったという点、つまり素直だったことも大きかった。
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● COMMENT ●
悩み
もうすぐ3歳の息子について
早期教育に少し疑問をもちながらも取り組もうか。。と悩んでいるときに出合いました。今は自分たちのペースで焦らずにやっていこうと思っています。
おとーちゃん様に相談なのですが。。。
5月で3歳の長男がおります。
遊びについてですが、仲の良いお友達が2人おりまして互いの家でよく遊んでおります。友達の家では仲良く遊べるのですが、自分の家になると少し殺気だったようになり、お友達がとるおもちゃを横からどんどんうばってしまい「これはだめ」と怒りだします。
おもちゃに対して執着心のようなものがあり、お友達と遊んでいる最中も何かしらおもちゃを握りしめて走り回っていたり、外出するときも必ず何かを持っていこうとしたりします。「危ないから今はおいておこうね」といっても「イヤ!」といって、ひどいときには両手に抱えるくらいもって友達にとられないようにします。
これでは友達も面白くないので、つまらなさそうな顔をしていたり早々に帰っていったりします。
私自身、子どもとなかなか上手く遊べていない部分もあると思います。年子で1歳になったばかりの長女がおり、保育園にも行っていない為一日中3人で過ごしているのですが、どうも上手く長男との時間を作る事ができていません。そういった親のかかわりが影響しているのでしょうか。
宜しくお願いします。
ゆっきさん
↑いろんなひどい話も耳にしますし、僕も実際様々な問題のある職員も目にしてきましたので、そのお気持ちはよくわかります。
そういったことがあるのは、本当に残念で心苦しいことです。
ご相談についてはこちら↓の記事でも書いたように
相談 「今からでも子供を変えられるでしょうか?」http://hoikushipapa.blog112.fc2.com/blog-entry-437.html#more
まずは「肯定」から出発し、たくさんの肯定の言葉・視線を送ってあげましょう。
そのシールのときにしても、状況が許すならば一緒に笑顔で楽しんであげることが、そのままお子さんへの「肯定」になります。
それらのたくさんの「肯定」が子供の心の中に作り上げるのは「自信」です。
そしてその自信が「満足感」「安心感」を維持してくれます。
結果的に、それが家にいるときでも遊びへと向かわせてくれるようになるでしょう。
このコメントから判断される限りにおいては、「遊ぶ力」の問題ではなく、そういった気持ちの上でのことのように思われます。
みどりさん
ちなみにうちの息子にも同様の姿がありました。
この発達段階のときに、「自分のもの」という認識・意識が形成されています。そのためその意識がとくに強く表れて、そのようなこだわりを生んでいます。
どこかの過去記事にも書きましたが、この時期に大人から「自分のもの」であることを尊重してもらえるという経験がその後の、円滑な成長にとつながります。
その円滑な成長とは、たとえばそのひとつは「ものをかせること」です。
いま貸すことを子供に教え込むよりも、それを認めてもらえることをすることが重要なのではないかと僕は考えます。
ですので、うちの息子の時にはこういったアプローチをしました。
家に友達を呼ぶときは、事前に子供自身に「どうしても貸したくないおもちゃ」を考えさせます。
そして、そのように決めたものは別室や戸棚のなかにしまい使わない・出さないこととします。
さらに、それ以外の玩具についても、今一度友達に貸したり一緒に遊んでいいかを、主要なものについてはひとつひとつ再確認を一緒にしてみます。
誘導尋問ではなく、きちんと子供自身に考えさせることがだいじです。
本人がそれで納得してから、友達とあそびます。
その上で、友達とモノのトラブルなしに遊べることができたなら、それを認めてあげることで心の成長が一歩前進していくことでしょう。
ときには、遊んでいる最中に「やっぱりこれは貸さない」といったことが出てくることもあります。
それもまたこの心の発達段階ではありうることです。
そのときは、「それはあなたが自分で一緒に使えると決めたものではなかったの?」と再確認してもいいし、「自分で決めたことなのだから、いまさらそれは困る」ときっぱり言うのも臨機応変に。
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失礼を承知で、おとーちゃん様のような保育士さんがいらっしゃるんですね。感動しました。
おとーちゃん様のような保育士さんに会ったことがなく、保育士さんのイメージが良くなかったので…
ご相談なのですが、うちの娘まもなく5歳は一人っ子です。
私は娘を客観的に見て遊ぶ力がないと思っています。
家にいると大人と遊びたがり、一人では遊べません。
私が相手をすると友達のように「何して遊ぶ?」から始まり、見守るだけでは許されず一緒にやるように強要してきます。
例え2枚しかないシールでも、娘は一緒に貼ろうと1枚ずつにします。
とにかく「一緒にやる」ことを強要されます。
娘は遊ぶ力をどのように付けてあげればいいでしょうか。
自分から独自の遊びを創造しない所が不安です。