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2023-03

子供の心にぽっかり穴を開けてしまう Vol.1 - 2014.09.05 Fri

今回はある事例を紹介します。
これはかなり極端なケースですが、多くの人が抱えている悩みや問題を濃縮してすべて抱えてしまっているようなものでした。ですからこの事例から、程度の差こそあれいまの子育てで気をつけるべきなんらかのヒントが見いだせるのではないかと思います。







父母と男の子の3人家族、祖父母などの協力は得られない状況。
年度の半ばを過ぎてから年中クラスに転入してくる。(以降この男の子をAとする)
Aは低月齢で身体も小さく、幼い部分が多くあり理解力なども年齢に比して発達していない。(知的な問題があるわけではない)

日中おむつこそ履いていないものの、午睡時はほぼ毎回睡眠中に漏らしてしまう、家庭での様子を聞いたところ夜間はおむつをして寝ているとのこと。園でも午睡中おむつを使うことを提案してそのようにする。

友達との関係もうまくとれないので、一緒に遊びたくてもそれができない。結果的に、ちょっかいを出したり遊びを壊すことで関わろうとする。また、家庭ではヒーローものやテレビゲームでしか遊べないので、そういった刺激の強いものを小さい頃からたくさん与えられてしまっている。そのため、構成遊びなど友達と作って遊ぶものということをあまり理解できていない。Aに悪意はないのだが、壊すこと叩くことなどを遊びとして理解しており、結果的に他児が嫌がる状況になってしまっている。

情緒が安定しておらず、着替えや片付け、散歩に行く際、集団での遊びなど生活の節目節目での行動がスムーズにいかない。
それらの行動の多くが大人からすると注意しなくてはならないようなことばかりになってしまっている。

言葉では伝えきれないのだが、子供らしい無邪気さとか幼さゆえの他児へのちょっかいだったり節目でのゴネというよりも、その背後に意地悪さや陰険さが感じられるような出し方をするので、保育士としても関わりにくく、受け止めようという姿勢をもって臨んでいてすらほとほと疲れきってしまうような姿の子供になってしまっていた。
例えば、気づかないふりをしてわざと他児の目の前でドアを閉めてぶつけようとしたり・・・など。
(参考:過去記事「ねちっこい甘え」について  ― 受容の大切さ ―


母親というのが、現代の子育ての難しくなる原因を一身に兼ね備えてしまっているような人であった。
初対面で会っても多くの人が「この人は対人関係不得意そうだな」と感じさせるようなタイプで、感情の表出も苦手。仕事でも人と関わるよりも圧倒的に数字やパソコンとしか関わらないような職種。
Aと向き合っているときも、通常の顔=無表情と怒っている顔か不機嫌な顔しか出していなかった。
また、母親自身も自己肯定感の低さを感じさせるところがあり、「すみません」が口癖のようになっている。

Aは2歳で無認可の託児所に入るまで家庭で母親と過ごすが、公園や児童館などでAが他児にちょっかいを出したり、他児のものをとってしまうことがいたたまれず、自分たち親子のことを悪く思われているのではないかと過剰に気にしてしまっていたとのこと。
そのため注意や制止、叱る、先回りしての行動の規制などが非常に多くなる。

2歳から入った無認可園は、大勢の預かった子供を最低限の人員で叱って怒って大人の手のかからない状態に押さえ込んで保育をするというところだったので、お迎えのたびに「今日はこんなことをして困りました」というようなことを言われることが多かったとのこと。
「もっとしっかり叱ってしつけなさい」という趣旨のこともたびたびいわれるので、母親もよけいにガミガミと子供に関わるようになってしまった。

そういった経緯や母親自身の自己肯定感の低さのためか、子供のことを良い方向に受け止めるということができない。
子供が描いた絵や作ったものを誇らしげに母親に見せても、「(描いてある絵が子供の言ったものに)そんな風に見えない」とか、「(工作を)これではすぐに壊れそうだ」というようなネガティブな返答ばかりをする。

子供に感心が低いとか放任気味というのではなく、もともと真面目な人で「子供をしっかりと育てなければ」と強く責任感を感じてしまっている。
しかしそれゆえに、過保護と過干渉がさらに過剰になり、しかもダメ出しや行動の規制などの「ネガティブな過干渉」の関わりが子供との関わりのほとんどとなってしまっていた。
乳児期からその状態であり、公園などでの他児との関わりや、託児所での指摘からそれらがより徹底的になされるようになっていた。


年中のときの担任の一人が、Aを献身的に受け止め受容と肯定をして信頼関係を築いていく。(さらっと書きましたが、これは本当に大変な労力を要することで、そのような力量と意欲を兼ね備えた保育士がこのときの担任であったことはAにとって本当に幸運なことであったでしょう。以降この保育士をB保育士と表記します)

前の園に通っていたときは、「先生がこわい」「いきたくない」ということばかりをAが言っていたが、新しい保育園に来てから「保育園がたのしい」「先生が大好き」と家庭でも話すようになり、当初なにかを指摘されるのではないかと構えていた母親も、保育士にだんだん心を開くようになってくる。

途中入園だったのでほどなく進級し年長になり、B保育士も持ち上がりで年長クラスの担任となり、異動してきたばかりのC保育士と二人担任になる。(B・C保育士とも20年以上の保育歴を持つベテラン保育士)


この年長クラスは個々にはそれなりに問題を抱えている子も多かったが、B保育士がずっと持ち上がりで信頼関係を築いてきていたので、クラスとしては安定していた。
そのため、Aがちょっかいを出したり、遊びを壊したり、集団での遊びや行動を中断させても、それを大目に見てあげたりAに譲ってあげたり、Aをフォローしてあげたり、幼くてできないことを女の子たちが世話してあげたりと集団としての力が強く機能していた。
そういう面もあって、Aにとっては居やすい雰囲気が作られていただろう。

C保育士も意欲も力量もある優れた保育士であったが、Aの方にまだたくさんの人に信頼感を抱けるほどの余裕はないので、信頼関係の形成途中という状況であった。

AはB保育士との信頼関係によって生活や遊びが安定を示してくる。
しかし、そういった姿というのはB保育士の存在があってしか出せない段階であり、B保育士が週休で休みになりC保育士しかいない状況ではやや安定を欠いてしまう。B・C保育士もいない早番遅番の時間などだと荒れた姿が出てくる。
B保育士がいないときには、ケガをした、ケガをさせたというようなこともしばしば出てしまう。

B保育士との信頼関係で安定した姿が出るというのは、具体的には例えば他児を叩いてしまうような状況でもそれをぐっと我慢したり、遊びを壊してしまおうとするのを直前でやめたりと自分の行動を律する姿がB保育士の存在によって出すことができているのである。

Aは遊びを提供しても遊び込めないし、楽しめないことが多かったのでB保育士はAとの関わりに絵本を使っていた。

Aのために読んであげるという機会を持ち、Aに大人に好意的に向き合ってもらっているという実感を経験させるために可能なときには積極的に絵本を読んであげるという活動をしていった。

これを続けることで、Aは大人とポジティブに関わる方法をひとつ身につけることができた。
「絵本を読んで」という関わりである。

Aが家庭でも絵本がおもしろい楽しいと母親に話すようになり、しだいに「絵本を読んで」ということを求めるようになった。
これが結果的に、母親の方の「どう関わっていいかわからない」という子供に対して構えてしまう気持ちに突破口を開いた。

そしてもうひとつ、このことから保育士にとっても衝撃の事実がわかった。

長いので次回に続きます。
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● COMMENT ●

あそびの相談です

いつも更新楽しみにしています。
二歳女児の母です。
遊びの相談なのですが, 今更なのですが, 何をして遊んであげたらいいのかわからないのです。

二歳になり、近所の児童館的なところでは狭くなり、同じくらいの子もいないのであまり行かなくなりました。最近では友達の家くらいしか行きませんが、そう毎日お邪魔するわけにもいかず。そろそろ外遊びも丁度いい季節なのですが, 外でちょっと歩くとすぐ抱っこを求めてくるので何しに来たかわかりません。

というわけで家で二人でゴロゴロしている状態です。なんせ私は子供の遊びというのが苦手で、積み木を積むだけとか、ひたすらままごとでフライパン煽ってるとか、食べる真似してるとか…
自分でもレパートリーが少な過ぎてあきれます。 同じことを好む子供でさえ飽きてるようにみえます(´・_・`) 絵本はちょこちょこ読みます。テレビは私がどうしても手が離せない時しか時みせていません。手遊び、お絵かきも短いです。

それで、私が家事をしている時、こどもが自分で遊ぶということをしないのです。別に常に全力で遊べ!と思っているわけではないのですが、指チュッチュしてゴロゴロ寝ています。ママかまってくれないかなーオーラ全開です。 おもちゃ出して遊んでいいよ、というのですが、自力で遊ぶ力がないようにみえます。
児童館の先生は、遊び方を知らないから、一緒にやって教えてあげたらいいと言っていましたが、先に述べたように遊びベタの母のため教えられず、先に進まないというか手詰まりな感じです。

子供にとって指チュッチュしてゴロゴロしている時間がながいように感じます。 ぐうたらしているようにみえるのがちょっといやです。 こんなんだったら幼児教室に通う方がお互い成長するのかなとおもいます。 テレビ(いないいないばあ)を見せると, 踊ったり歌ったりたのしそうです。

おとーちゃんはむーちゃんが二歳ごろ一緒に家にいて、毎日何していましたか?
ワンワンに負けている母にアドバイスいただけませんでしょうか。
毎日親子で退屈です´д` ;


ドキッとしました。

子供が一歳半くらいからこちらを拝見させていただいていますが、程度が違えどAちゃん母子が自分に重なりどきっとしながら読みました。

私も人目を異常に気にするたちでして、独身時代から自己肯定感が低く、妊娠中も毎日こんな気分ではおなかの子に障ってしまうと思いつつも自分の発言や態度が迷惑をかけていないかなどとくよくよと思い悩んでいました。
表向きは陽気に楽しいキャラに自然になれるので、誰にもそんな風に思われていないのも辛いところでした。

産後も電車内のマナーにびくびくしながら乗ったり、思い通りに動かない我が子を憎々しく思ったり・・・。
夫とは育児方針があわず、お菓子やDVDを昼夜関係なくいつでも与えようとしたり、今は夜更かしが当たり前の時代等と言う夫にいつもイライラきーきーしていました。
気がふれたかのように怒鳴った事も何度かあるし、外で手を繋がずに道路にわざと出ようとした娘に大人に対するように脅しつけた事もありました。
恥ずかしながら、夫へのいらだちを抑えきれずに娘に当たった事もあります。
軽く虐待だったのだと思います。
スキンシップや絵本を読んだりは全力でしていましたが、他児にけんか腰で向かうような子になってしまいました。
イヤイヤもひどく、反抗期がなかったと言われる自分達姉妹だったのでなぜいつもこんなに文句ばかり言う子なのかといらいらしました。
人が好きで誰にでもこんにちは、一緒に遊ぼうとは言いにいったり、優しいところもいっぱいある子なのに・・・。

こちらでお勉強させていただいてから、とにかくくすぐりと、辛抱強い声かけ、毅然とした態度を自分なりに頑張って来ています。
幼稚園に入ってからは私もおおらかなママ友さんや先生に助けられておおらかに見れるときがでてきました。

おかげさまで娘は年少の今でも手を出しやすくはありますが、一日中お喋りし、いっぱい絵を描き、工作をしてはお芝居ごっこをしたり、ママにプレゼントしてくれたりする素敵な子です。
自分を赤ちゃん役にするごっこ遊びが多いのと、まだ授乳を必要としている事に若干不安を感じますが、私も娘もこれからはきっと大丈夫!と思いながら育児をしています。

Aちゃんのお母さんの気持ち、子供も自分も認める事ができない辛さがものすごく良くわかります。
そして、そんな自分が子供をこうさせてしまったのだという罪悪感。
学校でも、子育てについて授業してくれたら良いのにな・・・。
例えば幼児が貸し借りがへたくそなのは当たり前、貸すよう強制せずにある程度見守るのが当たり前になれば、無駄に叱りつけることもなくなるし、親子で自分たちを卑下する事もなくなると思うのです。
中学や高校で幼児と触れ合う授業とかあればと思います。
また、人の心の育て方を単に道徳でなく本気で教えなければならないな、と思います。
自分が自己肯定感が低い状態を経験しているので(継続中)、この状態がどれだけヤケになってしまったりするのか、どれだけすぐ挫けてしまうのか、自分でいっぱいになってしまって暖かい気持ちが湧いてこないかを身を以て知っているので、世の中の子供にはこんな状態になってほしくないと切に願います。

Aちゃんを受け止めてくださる保育士さんたちがいて、本当に良かった!と思いました。
続きを楽しみにしています。

久しぶりにコメントします。記事が私の状況にどんぴしゃりです!

保育士おとーちゃんさま、お久ぶりです。覚えておいででしょうか・・・「もう一人のお母さん」ちゃあです。
今回の記事があまりに今の私にどんぴしゃで・・・コメントせずにはいられませんです!(>_<)

悩んでいる・・・というわけではないのですが、ずっと不思議に思っていた息子の行動・・・。この記事で謎が解けた気がします。

どうやら、息子にとってのB保育士さんの役割をどうやら「わたし」がやっているようで・・・わたし以外の家族の前では「困った姿」にどうやらなっているようです。もう小学二年生(とはいっても早生まれで同学年の子達と比べると幼いのかな?)なので園児と比較すると大したようなことではないのですが、例をあげると・・・

①必要性のある物事(やるべきこと・宿題・はみがき・入浴等)をごね、やりたがらない。
②気に入らないことがあっても素直に言えず、嘘(大抵、ケガや体調不良、要は仮病)で大人の気を引こうとする。
③食事の好き嫌いがひどい。突然の偏食。(気分がそうさせる?普段は平気で・・・、というか好んで食べているようなものも食べたがらない。又、同じものばかりを要求する。朝昼晩「塩おにぎりオンリー」なんてこともあるそうで・・・。)

これが、「わたし」が居ないと頻繁にあるそうなのですが(息子の祖母(わたしの母)談)、「わたし」は当然ながら、直接見たことはないんですが・・・態度が全然違うそうで・・・。「わたし」以外の家族は困っているようです。
他、普段は夜更かしをして困るようなのですが、これもまた、「わたし」がいるときはすんなりと入眠します。細かいところでは、物事に意欲的かそうでないか、も大きく変わります。お手伝いを積極的にやる、等です。

そんな訳で、わたし自身はちっとも困っていないのですが・・・、ある意味、「人で態度を変えている」かのような息子がちょっと心配でした。この記事を読んで、もしかしたら、息子自身も知らぬ部分での「安定している」ということで表れる態度の豹変なのかと思えています。そして、どちらが「本当の姿なのか」ということではなく、どちらも「今の彼の、成長途中の姿なのだ」ということなのかなーと思えました。

しかしながら、「ネガティブ」な行動で相手の気を引くということがこのまま身に付いてしまうようなことがあるかもしれないと、少し怖くもあります・・・(気にしすぎですか?)。関わっていく大人の方が変わってくれたら楽なんですが・・・残念ながら、相変わらずそっちはもっと難しいです。

A君のその後、続きを楽しみにしています。

そして、本の方も楽しみにしています。このブログの一番の魅力が、「親の側からの子育て」というところではないかなー、と、わたしは思っています。他の育児本などは、「子供目線、子供発信、子供の為」のアドバイス、意見が多いと思いますが、そうではなく、「親が楽になる為の育児法やアドバイス」があることだと思います。そういう魅力が失われていない本になるといいなあ。と思っています。


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