保育における「問題意識」 - 2015.01.24 Sat
「問題意識が必要」という話がでてきました。
現代の保育では、僕はこのことが非常に大切だと考えています。
最近の保育園では、ネガティブな行動が多かったり、イライラしていて乱暴だったり、他児とうまくかかわることができずにトラブルが多かったり、話が聞けない、集団行動ができない、または爪噛みや、噛み付きなどの問題行動が収まらないなどの、保育の困難さが増しています。
これに対して、少なくない保育士が、
「このクラスは大変だ」
「人手が必要だ」
と言います。
では、その保育を見てみると。
これが、その子供たちの大変な行動を抑えつけるだけの保育になっていることがあります。
具体的には、そのトラブルや問題行動を起こす子供を叱ったり、怒ったり、その子の行動を規制するばかりだったり。
または、あらかじめ取り合いになってしまうような遊具を出さなかったりすることで、問題の解決の仕方を身につけさせるよりも、大人が作為をして問題が起こらない状態を作り出すことに終始してしまったりしています。
はっきり言って、これではいつまでたっても、その子供の姿も、クラスも安定していくことがありません。
これらは「昔の保育」なのです。
まだ家庭や社会に余裕があったり、養育力があって、子供に問題な姿が出ていても、それを抑えつけている間にどこかの誰かがその子を安定させてあげられることを期待できた頃の保育でしかありません。
その当時であれば、「腰掛け」としての意識で保育士になった人でも、その仕事ができたしまったことでしょう。
現代では、保育士が子供の”関わりにくい姿”に当たったとき、それは「抑えつけるべきなにものか」ではないのです。
例えば、「子供の健やかな成長を援助する」というような内容が、保育目標なり、その園の理念の中にあって、それを職員が正しく理解しているのならば、その”関わりにくい姿”に出会ったとき、そこには「どうしてこの子はこのような姿がでてしまっているのだろうか?」という「問題意識」を持つことができます。
そこから、実践を通して考察や観察を深めていけば、その子供の問題行動の原因となるものが見えてくるはずです。
それらは多岐にわたりますから、それを正しく理解するためには「経験」が必要になってくるかもしれません。
例えば、子供がいつもイライラしており、周囲の子に理由もないような攻撃をしているようであれば、その原因には、親が多忙であるとか、下に弟妹が生まれたというような、なんらかの理由が見えてくることでしょう。
それはもしかすると、家庭で日常的に叩かれているためであったり、虐待されているためであるかもしれません。
さらにはそういった受容不足としての理由の他に、強い刺激にならされていてしまっているなどの複合的な理由が見えてくることもあるでしょう。
こういった状況に対してとるべきは、一見大人から見たときの子供の問題行動を「悪いこと」とすることではありません。
それは「叱って正すべき悪」ではなく、「その子供に固有の援助すべき課題」なのです。
しかし、昔の保育観で保育の仕事をしている人は、そのように受け止めることができません。
このことは、保育観としての問題だけでなく、「子育て」を「子供をうまく支配すること」と理解してきた日本の子育て観という背景もあることでしょう。
こういった方向性で保育をしていると、子供を抑えつけること、子供を規制すること、子供を叱責すること、子供にあらかじめ問題を出させないようにと行動を制限することなどを積み重ねていきます。
こういった傾向は、保育にだけでなく、一般の子育てをする人のなかにもしばしば見られることです。
子供にこのような対応を重ねていくと、そこでの大人と子供の間には信頼関係が欠如していきます。
子供は、その大人の話を真剣に聞いたり、その大人に従ったり、その大人に認めてもらいたいという意欲をなくしていきますので、その大人からすれば「大変さ」ばかりが募っていきます。
つまり、その保育士の言う「子供の大変な姿」は、その保育士自身が作り出している部分もあるということです。
冒頭の、
「このクラスは大変だ」
「人手が必要だ」
という状況で、そのクラスや保育を見たときに、そこの保育士と(全員とでなくとも)子供たちとの間に信頼関係が築けていたり、築こうとする姿勢があるのに子供の姿や保育が安定してないというのであれば、確かにそれは本当に「大変な」状況であり、「人手」も必要な状況なのだと思います。
しかしそこの保育士が、子供との間に積極的に信頼関係を築くことも知らず、子供の大変な姿に対して問題意識を持つこともなく、ただ「子供を支配するメソッド」のままに、抑えつける関わりを重ねているだけであるならば、それは保育そのものが間違っていることになります。
しかしながら大変残念なことに、日本の保育の少なくない数が、まだまだこのレベルにいます。
この「子供を支配するメソッド」で保育を考えている人は、子供の大変さの原因を、その「子供」や「家庭」に押しつけて考えがちです。しかも、否定的な方向で捉えています。
保育園の園長や保育士から、「こうしなさい」「これをしてはいけない」「あなたの子供がまた悪いことをした」といったことを高飛車に言われて嫌な気持ちをした人は多いことでしょう。
大変な子供を責め、見やすい子供だけ見ているのであれば、保育の仕事は素人にでもできます。
国家資格まで取って、子育ての専門家として保育をするのであれば、大変な子供ですら適切に援助したり、現代の家庭の補いをつけてあげたり、家庭に対しても適切なアプローチを伝えて、「子育て」そのものの援助ができなくてはなりません。
先日、保育士の方からコメントを頂きました。
保育の仕事をしたいけれども、納得のいく保育をしているところがなかなか見つからない、保育をよくしたいと思っても上に立つ立場の人の保育観がそもそもおかしいことを感じるとのことでした。
保育の仕事が「腰掛け」だった時代に保育士になって、年数だけ重ねて園長になったけど意識はその当時のままというような人がたくさんいます。
特に、第二次ベビーブームの頃に大量に採用された時代の保育士たちはその意識のままという人も少なくありません。もちろん中には立派な人もたくさんいますが。
いまちょうどその年代の人たちが園長・施設長になっています。
これから来るであろう、保育士の大量採用時代がそれの二の舞にならないよう願っています。
保育士になる人・保育士である人には、是非とも保育のプロとしての高い専門性を身につけて欲しいと思います。
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● COMMENT ●
No title
すみません、愚痴です。
更には、指示が通りにくい子をたたいて指導することがあるし、不安が原因で泣いている2・3歳児に向かって、くどくどと"今泣いてはいけない理由"を説教するし。まだ殆どの子がトレーニングパンツはいてるのに"足を揃えてお山座り"を膝を押さえつけながら全員にしつこく強要したり、弁当を"ママが作ってくれたんだから"という理由を大儀に脅迫し、何が何でも完食強要したり。
私のような新入り保育士にも、同じような保育法で子供に対処するよう言われるのですが、私にしてみれば、なんで こんな些細な事(私には些細な事にしか思えないのです)に関して全体主義的に子供をしめつけるんだろ???という疑問がつのるばかり。 2・3歳児を相手に、叱ったり規制したりばかりの「支配するメソッド」をほどこしたところで、これがいったい誰の・何の為になるというのでしょう??? 泣き声と叱り声が絶えない園内に、ひたすらむなしさを感じる今日此の頃です。
親ができることはあるのでしょうか?!
それでというか、こちらを読んで、自分の至らなさもよくわかりますが、保育園での生活が息子によくない影響を与えていたのかもしれないと思いました。最近のごたごたとこちらの記事、あとは市役所の人や心理士とのお話なども助けになりまして、いよいよ本当にそう思いました。
昨日お迎え時、積み木で遊んでいました。立方体の中央に円柱が入る形の組み合わせ。何色かあります。片付けて、と言われて子供達がきちんと箱に入れ始めました。青い立方体に赤い円柱を入れたら、担任はすぐさま青と青になるように入れていました。積み木に似た、円柱の玩具を入れようとして入らなかったら「それはいいの、別のおもちゃのだから、入らない、いいんだって。だからって投げないで」こんな感じ。否定的で限定的で・・・なんだかもう書いていて悲しくなってきました。
ヒステリックに怒るとか、ゆとりのない叱り方をするとかいうだけではなくて、こうした小さな態度がとてつもなく子供の自尊心を挫けさせていると思われます。要するに、担任は保育士には向いてないんじゃないかな。ただ、大きな子や一般の会社のように、小さい子は文句言ったりしませんもんね、居場所としては園長にいいようにできれば居心地がいいのかも。モラハラタイプの人間なら、自分の人格がなくて周囲の人間に合わせて自分の人格なんていかようにも出来て、下の人や子供達に威張ったり怒ったり出来るし。
人格障害だったらどうにもできないけど・・・「ひたすらむなしさを感じる」ような保育園に対して、実際に預けている・預ける親達ができることはあるのでしょうか。「声を上げること」は大事だと思うけど、親の立場からは、非常に難しい。全体的に将来的に良くしていくために、こどもたちのためにできることがあれば、と思います。
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黒米といいます。
私も保育業界に携わっており、これから保育士のみなさん、また保護者の方のサポートのためにブログをはじめました!!
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