子育て支援 ーいま保育園に求められていることー Vol.2 - 2015.05.10 Sun
「お宅のお子さんが乱暴で困っています」
「好き嫌いが多いようです、ご家庭でしっかり食べさせて下さい」
「とてもわがままなことが多いです、しっかりしつけて下さい」
園でその子の気になる姿を解決しようと努力するでもなく、ただその姿を押さえつけたり、一方的に叱咤して改善しようとするだけで、その問題の根っこからのアプローチをしていくといった視点もなく家庭に責任を押しつけていました。
じゃあ家庭でこうしてみるといいですよと伝えるわけでもなく、ただ、「〇〇が問題です。直してきてね」と伝えて終わっていました。
その一方で、保育中は「大人の言うことをきかせる」ことに主眼が置かれていて、支配的な関わりや、疎外を使ってまでの対応が多くありました。
そこで子供が受けるストレスから、子供は家庭に帰って甘えたり、イライラを親にぶつけることでバランスを取っていたりしました。
しかし、保育園側は、自分たちが疎外を使ったりする対応が「おかしい」と気づくこともなく、それを当たり前と続けてきました。
これらはすごく極端に書きましたから、もちろん全部がこうではありませんでしたし、よい対応をしていたところもたくさんあります。
ですが、このような傾向があったのは事実です。
(いまだに・・・この姿勢で保育をしている保育士や園も中にはあります。早く気づいてくれるといいのですが・・・。)
しかし、かつてはそのような、保育園が問題を家庭に押しつけるような対応をしていたとしても、それでそれなりになんとかなっていたのでした。
それは家庭や家庭の周辺に、それをカバーできる養育力があったからです。
現代ではそれはもうとっくに限界を迎えています。
いま、そのような対応を園から親にしたとしたら、親はどう頑張ってもうまくいかない子育てに行き詰まりを感じて、自分を責めたり、かえって子育てに無気力になってしまいかねません。
また、うまくいかないイライラが募ることで、子供に当たってしまったり、むしろ子供の姿が悪い方へいってしまいます。
さらには、それが回り回って園に対する怒りとなって、思わぬところで理不尽なクレームとして表れてきたりしてしまいます。
いま保育園に求められている社会的な役割は、家庭における養育力が低下しているという現実を前提として、そこをいかにサポートしていけるかということです。
その視点に立って保育を考えたら、保護者への対応の中で
「あなたのお子さんはなってないから、家でしっかりやって」
といった関わりはできないはずです。
その子の最適な育ちを考えて、家庭に負担をかけずとも園でできることは園で極力して、家庭にはどういうやり方でどうアプローチしていけば子供がまっすぐ育っていけるかを教えてあげられて、家庭での養育に問題があればそれに気づけるようサポートしていくといったことが必要になっています。
保育園の役割は、「託児」でも「子守り」でもないわけです。
「託児所」や「ベビーホテル」ならば、預かるだけで、また預かっている間安全にみていさえいれば、その目的は達成されます。
でも「保育園」を名乗る以上は、親への育児支援、家庭の養育サポートができなければならない時代になっています。
しかし、この「親への育児支援・家庭の養育サポート」ということが、「育児サービスの特化」ということで解釈されている向きがあります。
「長時間あずかりますよ」
「休日・夜間も保育します」
「お忙しくて通わせるのも大変でしょうから、園で習い事を受けさせますよ」
保育時間についてなどは、もちろん必要に応じて考えていくべきことだとは思いますが、
「育児支援=保育時間」と解釈してしまうようになっては、問題を見誤る恐れがあると思われます。
本当の意味で、「子育てのサポート」を保育士・保育園は模索していく必要があるでしょう。
だけど、現実は逆の方向へ向かっています。
近年の保育施設増加策で大量に参入した、営利を目的とした保育施設はこのようなことを積極的にはしようとしないからです。むしろ消極的にすらしないところも少なくありません。
なぜなら、サービス業だからです。
そこでは、余計なことを言うよりも、預かっている間だけ怪我のないように見て、親へのアプローチは耳に聞こえのいいこと、あたりさわりのないことに終始していた方がよいからです。
大手の保育企業の中にも、そのように「余計なことは一切言うな」と実際に職員に指導しているところもあります。
そこでは、「家庭への養育サポート」=「時間や付加サービスなどの利便性」なのです。
また、最初から職員に求めてはいないのですから、そこでの職員も家庭に「子育て」を伝えられるような知識・経験は育っていません。もちろん、個人でその力量があったり、学ぶ姿勢があるという人は別かもしれませんが。
営利でしているところは少なからず、経験・力量に関係なく資格者を雇って、単なる保育労働者として使っていくだけになりかねません。
そのように、現状の保育の実態の中では、家庭の養育力を補う存在としての保育施設の機能は薄れつつあります。
だからこそ、公立園や認可園といった、児童福祉として保育を行ってきたところは、その方面に力を入れる必要があるのです。
それがまずは園児の家庭に行うことができ、それを拡大して地域の子育てサポートや相談窓口として機能するようになれば、児童福祉としての従来の保育園の存在は際だったものとすることができるのです。
営利企業と同じ土俵に立って、客寄せパンダをつくる方にいってしまったら、将来、すべての保育施設は社会福祉としての機能は失われて、営利目的のサービス業になってしまうことでしょう。
いまこそ、保育園は本気になって育児支援・家庭支援を考えなければならない時期に来ているはずです。
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● COMMENT ●
子供への視点と親の姿勢と
おっしゃる通りの現実を変えたかった。。
正に危惧されているようにサービス業に追随するかのような社福の保育園に在籍していました。
どうやったら保育観を変えられるのだろう、そう思っていましたが、社福は経営陣が古くから固まっている為か考え方もかなり固まっていて、現代の子どもの置かれる環境、家庭状況などに想像力を働かせるという視点がないようなんです。
そして「昔から保育にいいと言われること」に固執するあまりあらん方向へ行ってしまう。。
多様な考え、他人の集まりの株式会社経営よりもタチが悪いのでは?!とすら感じたことがあります。
そして長時間開所や夕食サービスや盛大なイベントなどの歌い文句に惹かれて半ば信者のように保育園を褒め称える保護者が少しでもいる限り、変わらないのだろうと思います。
どうしらよかったんでしょう、悔しい想いを共有させてください。
同感です
「サービス業に追随するかのような社福の保育園」に
子どもを通わせておりました。
元保育士Kさんのコメントにありましたように、
・社福は経営陣が古くから固まっていて、
・長時間開所や夕食サービスや盛大なイベントなどの歌い文句
をウリにしており、
その結果、
・それに惹かれて半ば信者のように保育園を褒め称える保護者
がおりました。
どういう質問をしたら、
サービス業優先園と、子育て支援優先園とを見分けられるか、いくつか保育園を見学してみて、なんとなく掴めました。
「色々なことに挑戦する心を育てる」
ことを第1の目標に掲げているところはほぼ、サービス業優先園です。
このタイプの園の場合、幼稚園のように体操や音楽の講師を呼んできたりしていて、保護者の評判は結構良かったりします(保育士の離職率が高くても)。
一方、子育て支援を謳う保育園の見学では、「挑戦する心を育てる」
みたいなことを説明されたことはなかったです。
もし、園選びをされている方の参考になれば幸いです。
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思うことは2つ、子供への視点と親の姿勢、です。
最近、生殖医療についてと小学校の英語教育について、「今進んでいこうとしている方向でよいのか?」と疑問を投げかける内容を新聞で読みました。
どちらの内容もすとんと自分の中に入ってきたのは、それぞれの筆者の方の「子供への視点」がおとーちゃんさんのそれと同じ(と私には思えた)だったからです。
保育がおかしな方向へ進もうとしている。
その根底にあるものを、おとーちゃんさんは、今までこのブログの中で教えてくださいました。
結局、その根底にあるものをどうにかしないと、保育園のありかたも保護者が園に求めるものも、変わらないでしょう。
それが、子供への視点です。
私が住んでいるのは過疎化に悩む田舎で、田舎ゆえ、園の選択肢は実質上ありません。
今5歳と3歳の子供たちの入園前、園の子育て支援にずいぶんお世話になりました。
園庭開放、年齢別のクラス(月1回)、季節の行事…
園児の様子も垣間見られるし、家ではできないような経験もさせて上げられるし、ママ友もできるし、ちょっとした子育ての悩みも聞いてもらえるし、とても良いものでした。
ただ、こちらでおとーちゃんさんが書かれているような「家庭への養育サポート」なのか、というとちょっと違っていたのかもしれません。
園の選択肢が実質無い以上、園の宣伝を兼ねている訳ではないのだろうけれど、やはり「お試し入園」という感じはあったと思います。
親の側も、「子供を遊ばせに連れて行く」という感じで、「子育てについて学ぶ」という姿勢はほぼありませんでした。
今思うと、家庭に居ながら保育のプロの姿を間近に見られるのだから、
このブログででおとーちゃんさんが書かれているような、
子供への関り方や子供の発達段階などを、親が学ぶべきだったのだと思います。
のんびりとした田舎の話ゆえ、都市部の園の事情とはかなり異なるかもしれません。
先日、市の支援センターのプレールーム(園とは無関係)で、育休中のその園の先生(お子さんを連れてこられていた)をおみかけしました。
その先生が、たまたまそこにいた3歳児さんと遊んでいて、その子がとても良い笑顔をしているので観察していたら、
何気なく遊んでいるだけにみえて、おとーちゃんさんが書かれているようなことをいろいろと実践されていました。
若いけどとても良い先生という評判なのは、そういうことだったのかーと納得したのと同時に、
その子のお母さんは何故かその子が悪いことをしていると思ったらしく、「保育園の先生にメ!してもらうか」と声をかけ、
子供も急に笑顔をひっこめて萎縮してしまいました。
家庭でもその先生のような関わりをしてあげれば、その子の良いところを伸ばせるのになあ、と残念に思いました。
そして私も見習わねば、と思った次第です。
なんだかおとーちゃんさんが言わんとされていることとはずれたコメントになってしまいました。
いつもうまくまとめられず長々とすみません。