「保育士」という職について考える - 2016.03.24 Thu
『保育士給与のために、一人当たり月5万円増額してください!』
というキャンペーンがエントリーされています。
僕もこれに賛同しました。
でも、どうせならば平均給与にあわせて、「10万円の増額を」と言うべきではないかとも感じます。実際は、金額は個々の施設により差異があるので、「平均給与まで引き上げる」ということを明確にしてもよかったのではと思うのです。
(この発起人の方の経験から割り出した金額だとそれがおよそ5万円ということのようですね)
そもそも、なぜ保育士の給料が安いのでしょうか?
実はこれには「女性差別」が大きく関係しています。
伝統的に女性が主体であった職業は、待遇や給与が悪くなるという明らかな傾向があります。
かつて「腰掛け」という言葉がありました。
女性も男性と同じように働くようになった現代において、この言葉はもはや死語になっていますよね。
「腰掛け」とは、「結婚までの”つなぎ”につく仕事」といった意味合いです。
保育士(その時代では「保母」という名称)、は「腰掛け」の代表的な仕事でした。
僕の同世代の女性には、父親から「女が4年生大学なんかいくもんじゃない、どうしても進学したいならば保育短大か、家政短大にしなさい」そのように言われたという人が普通にいました。つまり、保育士や栄養士の資格を取るのは「花嫁修業」(これももはや死語ですね)感覚だったのですね。
「女性が4年制大学に行くと、結婚や就職でかえって不利になる」そんな社会的な通念もありました。
雇う側の保育施設にしても、資格をもった人間がどんどん卒業してきます、しかもその人たちは一生の仕事、家族を養うための仕事として考えてくるわけではないので、安い賃金で使っても問題がありません。なにしろ、そういった条件ですら向こうから来てくれるのです。
数年働けば(まだ結婚適齢期という概念のある時代でした)、結婚して寿退職してくれるので、昇給をあまり考える必要もありません。
同時に、どうせ数年で辞めてしまう職員に、時間と経費をかけて職務の研鑽・研修を積ませる必要もあまりありません。(また、その予算もありませんので、そういったことに力を入れている施設は一部でした)
「若くて、元気で、子供好きならばできてしまう仕事」という認識です。(←当時はそのように考えられる向きがあった。いまに比べれば、家庭状況の安定などの諸条件から、ある部分ではそれは事実でもあった)
「世間からも女性がそのように腰掛けでする仕事」のような認識があります。
また、あけすけに言えば、「主婦が家庭ですることに、毛の生えたような仕事」、「子供と遊んでいるだけの、さして責任の重くない半端な仕事」といった認識が厳然としてあったのです。
そのような傾向のある仕事の主なものが、
看護、介護、栄養士・給食調理、保育
といった分野に多くありました。(看護は”腰掛け”仕事ではありませんでしたが)
看護師も現在でこそ、一時期の有資格者に対してなり手が著しく少なかった時期を経て、給与面の向上がありましたが、女性差別の強かった職業です。
職務・責任に比して、労働条件が悪く、給与が安かったり、「お礼奉公」のように束縛される就労システムが公然と存在していました。
そういった状況がある中で、名称の改正の必要性が叫ばれました。
看護婦は看護師に、保母は保育士にすることで、そういった職業格差、男女格差を是正しようとしたのです。
しかし、日本人はどういうわけか建前を代えるだけで満足する癖があるようで、そういった機運は名称が変わったことでほぼ途絶えてしまい、給与や労働条件の改善まで続きませんでした。
男性がそれまでの女性の職場に入ることで、多少なりとも改善される方向へ向かうことも期待されましたが、現在のように男性保育士がもはや普通の状態になってすら給与面はさして向上していません。
やはりまだ世間的には、かつての「女性仕事」の考え方が残っているのでしょう。
えらい人が言うには、現在は「女性が輝く社会」なのだそうです。
しかし、そうはいいつつも一方では、いまだに女性差別の名残はあり、それを改善しようとすることには腰が重いままです。
近年、保育の営利化が進みましたが、それら企業化した保育施設が保育士の賃金を上げたかというと、そういったところはごくごく一部で、多くはそれまでの低賃金の伝統をそのままに、人をいいように使っています。”使い潰す”ような労働条件のところもあります。
現代は、保育に専門性が必要な時代になっています。
子供を取り巻く問題は多く、乳幼児期を大切にすることで、のちの社会問題までも軽減させるようないとぐちすら存在しています。
家庭支援、子育て支援の必要性も言われています。
それらは低賃金の重労働の中では達成することは不可能です。
しばしば、「福祉の精神で」「奉仕の精神で」「子供が好きならば、お金ではなく・・・・・・」といったことを口にしてこの問題を語る人がおりますが、それらははっきりいって現実を見ない”きれい事”です。
また、本人にその自覚はないかもしれませんが、それは結果として女性差別を助長することになっています。
子供が好きで保育士になったのに、結婚して家庭を営むにも厳しい給料しかもらえない、子供を産んでも十分な教育を受けさせられるだけの余裕がないということになれば、続けられないし、そもそも保育職に就かないのです。
「問題のある職員がいることはわかっている、しかし、他になり手がいないのでその人を雇い続けるしかない」といった施設も少なくありません。
給与が低いということは、そういう現実を生むということです。
保育園に子供を預けたけれど、「当たりの先生とはずれの先生がいる。来年度の担任が誰になるか心配」そのようなことを実感してきた人も少なからずいることでしょう。
本当はそれでは困りますよね。
そのためには、せめて人並みの給料がもらえるようにならなければ、安心して預けられる施設にすることは難しいのです。
保育という仕事は、いいものになれば社会の多くの人を笑顔に、幸せにすることができるポテンシャルを持った仕事だと思います。
それが実現するか否かは、もちろん保育施設、保育従事者の意識にもあるけれど、社会がどのように保育の仕事を位置づけるかというところにも存在していると感じられます。
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● COMMENT ●
私も賛同しました
共感!
ほんとに、ずっと、そう思ってました。
腰掛け程度にしか思われてないなぁって。
奉仕の精神って、人の良心につけこんで、最低、、って。
仕事はすごくやりがいがあって、子どももたまらなく可愛いけど、給与的にも制度的にもココは、一生働ける環境にない、と見切って退職した、というのが本音です。
人は、大切にされてこそ、人にも大切にできると思う。保育士の処遇改善は、本当に本当に、急務だと思います。それは、間違いなく、間違いなく、子どもや保護者に還元されることでしょう。
どうか今、この声が、反映されますように。
保育士さんの地位向上のために
さて、こういう歴史があるのは知りませんでした。30代ですが、あまり深くかんがえていませんでした。
給与が低い理由、なるほどーと、目から鱗です。
だから政府の高齢の?お偉方?は一時保育の定員を増やすとか(自分で決めた安全基準を自分で破るとか、あり得ない…)、無資格の人を入れるとか、全く本質的でない政策を思いつくわけですね;^_^A
わたしの父も最近孫の育爺をしてみて、育児の大変さに気づいています。いまは、普通に「保育園様々だな!」という言葉が出てきます(苦笑)。昔の人は関わってないだけに知らない、のですね。
わたしも初めての育児をしてみて、これは誰にでもできることじゃない、と感じました。いや、子供なのでいかようにもできます、大人の都合で強制的に動かすことは。でもそうではなくお父ちゃん様の日々言うような教育的、こどもへの配慮、こどもにあった対応、それらを実践するのは並大抵の精神ではできませんし、深い知識理解がないとできません。ほんとに大変な仕事です。
どうしたらこの、お偉方?の認識と、現実の溝を埋められるのでしょうか。切れる子供とか、日本人の気質とか、そういったことにはやはり乳幼児期が非常に重要で、あとづけでは育たないものもありますし、気付いた時には手遅れ…。
もっと保育士さんのすごいところを世間一般に知らしめることが地位向上に繋がると思います。母親向けには色々情報がありますがわたしも子供がいないうちは全く関係ない分野なので知りませんでしたし。
おとうちゃん様などが、世間一般に広く発信していかれることを切に願います。
子供は自分のことを何もできず、大人頼りなわけです。安全性が求められますし、将来への影響の大きさもあり、昔学校の先生が尊敬の対象だったように非常に尊い職業だと思います。
このブログをご覧の人は十分承知っと思いますが、世間一般にもそれを分かってもらう、これが大事だと思います。
デモ自体の賛否は様々にあるでしょうが、これから保育士を希望するという方が安心して目指せる職業になってほしいものです。
賛同しました
大きな動きとなっていくように、応援しています。
>かつての「女性仕事」の考え方が残っているのでしょう
介護の仕事もそうですが、
保育(育児)はかつては「嫁」が無料でやっていたことなので、
そこにお金を出すのに抵抗のある「えらい人」というのは少なくないのかもしれませんね。
実際に子育てしている側からすると、
保育士という仕事は「一生の仕事」とする価値のある
やりがいと責任のある仕事だと思います。
お金(待遇)の問題でやる気のある人がやめざるをえないというのは
本当にもったいないです。
建前と本音
政策を考える行政の方(主にトップ)の方の本音が、「女は社会になんて出ないで家庭に入って子育てしていろ」というところにあるからだと思います。
どこかの校長先生が、女性はキャリアを積むよりも子供を二人以上産むのが大切ですとおっしゃいました。
子育て支援策として3世帯住宅建築への補助金が盛りこまれました。
マタハラは相変わらずで、妊婦は怖くて妊婦マークもつけられません。
女性議員へのヤジのひどいこと、マスコミの「美人すぎる◯◯」というキャッチコピー。
女性が輝く社会をいくら建前に掲げていても、無意識に腹の内に抱えた本音が「女は家で子育てしていろ」なので、びっくりするような珍妙な対策が目白押しなんです。
女性に輝けと言ってるのは、家で子育てと介護しながら時間をやりくりして安い賃金のパートで正社員並みの仕事をして税金を納めろと言う事です。
立派な建前を掲げても本音が透けて見えるので、ガッカリを通り越して、ため息も出ません。
政治携わる人は、目先の選挙までの2・3年ではなく、20年後・50年後の日本をどんな形にしたいのかそのために何をするのかを語ってほしいと願っています。
自分たちは責任を取らず、寝ていてもお金が貰え、贅沢を尽くす。。困っている人たちには援助は行き届かない。国民はバカにされています。だから、私達がもっと政治を勉強して、行動に移す必要があると思います!
おとーちゃんの記事に書かれていましたが、問題のある職員とはどんな方なのでしょう?正直、みんな問題を抱えている気がします…。ご意見伺いたいです。
政府に意見できます
こんな場所があります。厚生労働省のサイトで、保育園や保活についてのご意見をください、というものです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000117083.html
ぜひお父ちゃんさんなど、プロの方も提言してください!私も親として区立園私立園経験者、として意見出しました。
お父ちゃんさんの歴史認識のお話、非常に新鮮だったので、そういうところから紐解くと改善に向かっていきそうです。
とにかく多くの方の声を届けましょう!
どういう役割を演じるか
なので、賃金のアップには、賛成です。
保育の質も向上するでしょう。
ただ、問題はどういう役割を演じるかですね。
保育士が、子育てをするようになったら、
日本はお仕舞いでしょうね。
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ハコばかり増やしても、保育の質が上がらないことには未来は明るくなりません…。
(というか、質を上げなきゃ結局ハコも増えない…)
選挙なんかもママ世代がこぞって参加して、お上も予算を増やさざるをえない状況にするとかね。
(子どもたちやママ世代に手厚い政策とる所に清き一票が大量数入るとするならば、お上も無視できないはず)
「保育園落ちた」騒動などをみると…
ママさんパワーはなかなか無視出来ない状況になってるような気もします。