子供を潰す「愛」のカタチ - 2016.08.07 Sun
「愛」というのはすごく抽象的な概念です。
通常、子育てを語るときに使われる「愛」という言葉は、
「優しく、あたたかく、自分よりも相手を優先させるような心持ち」
といったことを意味しているでしょう。
しかし、それは円満な生育歴を送った人が、ある程度子育てに適した人格や対人スキルを持っていて、周囲に支えてくれる人、助けてくれる人がいたり、経済的、精神的、情緒的に円満な状況で、取り立てて育てにくくないタイプの子供を子育てしている時に使える言葉です。
例えばこんなケースがあります。
そのお母さんは子供時代母親から暴力的な虐待を受けて育ちました。
そういう生育歴を持っているので、子供への関わり方がうまくありませんでした。
それでも子供を叩かずに子育てしていたのですが、その人の子育てを見ていたある人が好意で「もっと愛情をかけて育てなきゃ」といったアドバイスをします。
その言葉を言われて、そのお母さんはそこから子供を叩きはじめます。
別にその言葉によって追いつめられて叩くようになったわけではないのです。
そのお母さんの内面には、通常の人が考える
「愛情」=「優しく、あたたかく、自分よりも相手を優先させるような心持ち」
といった感覚がないわけです。
その人はそういう人との関わりのロールモデルを持っていないからです。
そこで、そのお母さんが一生懸命探した「愛情」の指し示す行動にもっとも近かったのが「叩く」ということだったのですね。
それは極端なケースかもしれませんが、普通の人にとっても「愛情」という言葉はしばしば、攻撃する言葉、脅迫する言葉になります。
子供が安定していない状況があるからといって、好意であっても「もっと愛情をかけてあげてください」と伝えたりすれば、現代ではそれは多くの人を追い詰める言葉になります。
なぜなら、子供が安定していないのは、その人の「愛情が足りない」わけではなくて、具体的な関わり方が”うまくない”ところに原因があるわけです。
そして現代で子育てが”うまい”人など、ほとんどいないといっていい状況があります。
そこで、「愛情」という言葉を使ってしまえば、その人は「親として自分がいたらないのだ」と自分で自分を責めることになってしまいます。
それではなにも解決しません。むしろ悪化させることすらあります。
ですから、現代で子育てを「愛情」という言葉を用いてそのやり方を説明することは円満な人が円満な状況でしか使えないのです。
さて、少々長くなってしまいましたがいまのは前置きです。
今回お話したいのは、表題に書きました”子供を潰す「愛」のカタチ”です。
それは僕が「愛」という言葉で子育てを説明しないことのもうひとつの理由にもなっています。
「愛」をそのように子供を潰してしまうカタチで理解している人も、世の中にはいるからです。
では、それはどういうものかというと。
「私の望む”あなた”でなければ、私は許容しない」
という親の姿勢です。
子供に一生懸命関わっている人で、子供に大変手をかけ想いをかけて子育てしていると、通常「愛情がある」ということになります。
しかし、その中身がこれになっていると、親の思いや期待とは裏腹に子供は潰されていくことがあります。
その姿勢からの関わりは、子供に対する想いがその分だけ結果としては「支配」や「束縛」になっていきます。
その人は子供に対して大変心を砕き、手もかけます。
でも一方で、子供の行動や気持ちのあり方まで、「このようでなければならない」という強い思いで決めつけそれをその子に課していきます。
子供は、窮屈さは感じるかもしれませんが、その子にとってはそれが「当たり前」となりますので拒否したりすることもなく、その親の期待・要求に応えるべく頑張っていきます。
しかし、その愛のかたちから発される好意は「条件つき」です。
その人の望む通りでないと、その好意は向けられないのです。もしくはもっとあらかさまに、否定や攻撃をされてしまうのです。
このような子育てのかたちは、本当に”子供のため”とその人自身が心底信じてしているケースから、エゴの強さから来ている「自己愛」的なものまでさまざまです。
その人自身が、その親からそのように育てられてきたという、生育歴に由来する場合もあります。
実際はその程度はさまざまです。
他の大人との関わりでバランスがとれることや、その子自身の持ち前の個性で乗りきれてしまうこともあります。
ですが、この「私の望む”あなた”でなければ、私は許容しない」というタイプの関わり方で子育てするのは、とてもリスクのあることだと想います。
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● COMMENT ●
かずママさんへ
僕は、渡辺康麿著の『わかっていてもイライラするお母さんへ』という本が参考になりましたね。
相手のあるがままを受け入れるには、先ずは自分のあるがままの感情を受け入れることらしいです。
それには、相手と自分の言動を分けて、自分の言動をヒントにして、自分の感情を知っていくというものです。
まぁ、その本には、やり方と事例が載っているので分かりやすいです。
興味がありましたら読んでみてください。
かずママさんへ
言葉が達者になってくると、ついつい日本の昔ながらの育児によってしまう気がします。やはり、育った環境のせいなのでしょうか。
私も働き始め、ついつい怒る(上からものをいう)ところが増えてしまい、他にも私の対応に問題があり、あっという間に子供は話をスルーするようになりました。しかし、おとーちゃんさんのブログを見て今まで築き上げた信頼関係があるお陰でしょうか?言い方を『ママ悲しい』とか『ママ困る』とかえた途端に聞いてくれる様になりました。勿論他の対応も見直しましたが。
後、最近『共感』してなかったなぁー…と気付いたり。
子供は柔軟ですね。本当に子供に育てられていると実感させられる毎日です。
ママのリフレッシュも忘れず、お互い育児頑張りましょう‼
支配されて育ったみたいです
私は母から支配されて育ってきたみたいです。
自己愛ではなく、「本当に”子供のため”とその人自身が心底信じてしている」という方でしたが。
子供の頃、保育園〜中学校卒業までいじめられていたり。
人と話すときに、常に自分の考えではなく、相手が欲しがっていると思う答えを言ったり。例えば、高校生の頃、母に好きな芸能人を訊かれて、母の好きな芸能人と同じ人を答えたり。こんなおじさん好きなわけないじゃん、と心の中では思っているのですが、その答えを信じる母が不思議でした。本当に高校生の女の子がこんなおじさん好きだと思ってるの?と。
相手の欲しがっている答えを言っていることに気づいたのは大人になってからですが、相手の望む答えではなく、自分の考えを話そうと思っても、自分の考えが出てこなくてびっくりしました。
このせいか、人と会って話すのは大好きなのに、誰かと一緒にいると疲れすぎてしまいます。
進路も、望む大学、学部に行ける実力は十分にあったのに、母の何気ない一言で行けなくなりました。
本当に、世間話程度の何気ない一言だったのですが、それを聞いたとき「ああ、私はもうこの学部には行けない」と感じたことを覚えています。
私が「行く」と言えば、反対もされず、むしろ喜んでくれていたはずなのですが。
理屈ではないんですよね。
何気ない一言に縛られるくらい、かなり強く支配されていたのでしょうね。
支配されて育っていなかったら、全然違う人生だったのだろうな、と思います。
残念に思いますが、諦めるしかないですね。
まあ、そのおかげで夫や子供たちに会えたわけですし。
今一番心配なのは、4歳、1歳の息子たちを、母と同じように支配してしまわないかということです。
自分で気をつけているところは、なんとかなります。
でも、普段の生活にたくさんある何気ない日常的なこと、素の自分が出てしまうところで支配を積み重ねてしまうのではないかと、心配です。
そこを変えるためには自分が変わらないといけないですよね。
カウンセリングを受けようか、迷っているところです。
子供たちには、のびのびと育ってほしいです。
ぷこたんさんへ
「諦めるしかないですね。」とありますが、そこはあきらめないで欲しいです。
ゴリキンさんのように、「相手のあるがままを受け入れるには、先ずは自分のあるがままの感情を受け入れることらしいです。 」と繋がるものがあるかと感じました。
カウンセリングに興味があるのでのあれば、
東ちづるさん/長谷川 博一さん著作の「“私”はなぜカウンセリングを受けたのか」はどうでしょうか?
もともとは、おとうちゃんが紹介していた、長谷川 博一さんの「お母さんはしつけをしないで」を読んでみて、もっと読みたいと思って手に取った本です。
子供と自分の関係は、自分と親の関係を反映しているのだと考えさせられます。考えすぎて、深みにはまりそうでもありますが。
だって子供の問題だと思っていたのが、自分に跳ね返ってくるので・・・
これで子育てがすぐ楽になるかと言えば違うのですが、
でも子育てとは違う、別の視点を与えてくれます。
とことこさんへ
本をご紹介いただき、うれしいです。
カウンセリングに関する本、読んでみたかったのですが、なかなか行動に移せずにいました。
支配されていたというのは私の思い込みかも、とか、支配されていたことを事実として受け止めてしまうと、苦しいのだろうな、とか、母を恨んでしまうのではないか、とか、もし恨んでしまったら、その気持ちを母に向けてしまわないだろうか、父と幸せに老後を過ごしている母を傷つけたくないなぁ、とか、いろいろ考えてしまうのです。
ご紹介いただいた本、読んでみますね!
「お母さんはしつけをしないで」は読んだのですが、この著者の他の本は探していなかったので、ご紹介いただいて本当にうれしいです。
「諦めるしかない」というのは、私の人生のことではなく、もし支配されていなかった場合にあったかもしれない私の可能性のことです。
自分で言うのもあれですが、私は、子供の頃からたいていのことは人並み以上にできたんです。
勉強も医師でも弁護士でも現実的な範囲内でしたし、運動神経もいい方で運動会ではたいていリレーの選手に選ばれ、合唱の時にはソロを頼まれたり、カラオケでは友人が私の歌を聴きたがってリクエストしてくれたり。社会人になってからは、仕事でもそれなりに評価され、信頼されていました。
また、人にも恵まれ、学生時代も社会人になってからも、私のことをかわいがって何かと手助けしてくれた人がたくさんいます。
でも、どれも活かせないのです。
特に残念なのは人間関係です。私のことを心から大事に思って気にかけてくれる人たちなのに、そんな人に対してさえも接すること自体がストレスになってしまうのです。もう会社に行けなくなってしまうくらいに。
今は、本当に幸運なことにいい人と結婚でき、二人の子供にも恵まれ、経済的にも問題なく、義実家との関係も良好で、私は幸せに暮らしているのだろうなと思います。
夫は、何度かあった私の試し行動(今思えば、ですが)にも付いてきてくれて私の愛情に対する飢えを満たしてくれました。今子供たちと一緒に過ごす時間を幸せと感じられるのは、夫のおかげだと思っています。
長々と自分のことばかりすみません。
コメント、本当にうれしかったです。ありがとうございました!
ぷこたんさんへ
ちょうどこの本を読んでいる最中だったので、つい気軽に紹介してしまったのですが、
何も知らないのにお節介なことしてしまったかな~と気になってました。
きっと子供の時からぷこたんさんは頑張ってきたのだと思うのですが、
もっと自然に、自分が幸せと実感できることが大切なんでしょうね。
でも本当に会社にも行けなくなってしまうくらい悩まれている方に対して、いい加減な私が何も言えません...
紹介させていただいた本で、もし僅かでも楽になる糸口があれば、いいないと思いますが。
ただ本当に切羽詰まっている状況であれば、ぜひ勇気を持って専門の方に相談されるとよいかと思います。
愛情不足という禁句
ついでに、映画をひとつ紹介します。『みんなの学校』です。ひとりひとりを認める教育について考えらさせられました。おとーちゃんさんが興味をお持ちになりそうだったので、勝手にリンクを載せます。不適切であれば削除してください。
みんなの学校 公式サイト 予告編
http://minna-movie.com/trailer/
自主上映会スケジュール 関東
http://minna-movie.com/jyouei.php#kanto
そう育てられました……
機会あるたびに「あなたは素敵な子だよ。そのままで大きくなってね」と抱き締めます。
これは自分にも言い聞かせてます。
他におとーちゃんによる連鎖の止め方のヒントがあれば読みたいです(>人<;)
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今回の記事、胸にズンとくるものがあります。
息子が可愛くて可愛くて、いつも抱っこやおしゃべりをたくさんしているのですが、最近の成長期?の様子に疲れてきています。
もともと従順な控えめな子だったので、我が子に対してイライラする、という感情があまりなくきたのですが、最近になって自分でも押さえられない程の感情が出てきて、だんだんと怒る事が多くなってきてしまい、自己嫌悪の毎日です。
最初はなんでもなく普通に優しく受けてから対応するのですが、それでもなかなか止めない、わざとする、かまってかまっての連呼、わかっていて逆の事を言ったり…。
だんだんたまってきて、いいかげんにして!!となってしまい、これ以外の対応がなかなか出来なくなってきてしまいました。
こういう状況が続くと、私はこの子の行動や気持ちのあり方まで、今までの従順さを求めているのかな…ありのままを受け止めてあげれていないのかなと不安になったり。
でもしつこい様子にうんざりしてしまったり、ご飯など大切な事や危ない事など、どうしても言うことを聞いてほしいと思ったり。
なんだかわからなくなってきてしまい、疲れています。
おとうちゃんのおっしゃる先回りした関わりや、成長期での対応や気持ちの持ちよう、乗り越えるの記事などをいつも参考にしていて頭ではわかっているのですがなんとも気持ちがすっきりせず、行き詰まっています。
主人もとても子育てに協力的で、いつも遊んでくれたり家事を手伝ってくれたりもしているのですが、最近は主人も少し疲れている?様子もあります。(子供の姿だけではなく、私の様子や、仕事が大変と色々な原因はあるのですが)
コメント欄をお借りして大変申し訳ないのですが、どなたか良いアドバイスを頂けないでしょうか。