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2024-03

「いい保育」と「上手い保育」 vol.5 - 2016.10.13 Thu

さまざまなテクニックやコントロールする手段を用いて、子供を大人の思い通りに管理・支配してしまう保育を、僕はここでは「上手い保育」と呼びました。


なぜそのような呼び方をしたかというと、「それこそが目指すべき保育だ」と考えている人が少なくないのと、保育士のスキルの「上手さ」によって子供の行動を作り出してしまう保育の問題点に気づいて欲しいからです。






大人が介入することで正しい姿を作り出すことは、保育・子育ての終点ではないのです。
でも、一般にはそのように考えられがちです。

本当に目指すべきところは、子供が自身の力で、その姿(行動)や成長を得られることなのです。


この違いを理解することは、頭の中だけでも結構難しいです。それを実践的に理解し習得することはさらに難しいでしょう。



保育士になったばかりの人は、まずほぼすべての人が程度の差こそあれ前者のポジションにいます。

そこに気づかないまま新人時代が終わってしまうと、その人は自分のしていることにある種の自負やプライド、または「こういうものだ」という先入観が生まれてしまって、それを変えることは非常に難しくなってしまいます。


だから、僕は保育を身につけるにおいて、新人時代のアプローチが非常に重要だと思います。
しかし、保育士の問題点は、それらのことを適切に習得している人であっても、そういった子供への関わり方や姿勢を感覚的にしか理解していないので、他者・後輩にそれを的確に伝えることが不得意である点です。


適切な保育ができる力量のあるベテランが、子供を力業で管理や支配をしてしまう新人保育士を止められずに対応に苦慮しているといった話をしばしば耳にします。


その新人の方にも、自身の生育歴に由来するものなどなんらかの根深い問題があることもありますが、やはり理論と実践の両方で保育を理解する必要が現代の保育士にはあるでしょう。




さて、ではここで「上手い保育」に対しておかれている「いい保育」とはどんなものなのでしょうか?


それは、大人の介入や強制力によって、子供を管理や支配、またはうまくおだてたり釣ったり誘導して大人の思うようにコントロールしてしまう関わり方をせずに、子供をその大人の目指すところに成長させていける保育のことです。


そのようなことを言うと、「この人はなにを言っているのだろう」とポカンとされてしまったり、そんなのは「理想論や机上の空論だ」といった反応がかえってくることもしばしばです。特に、その人自身がそれが緩やかなものであったとしても管理的支配的な関わり方をしてしまっている人の場合はなおさらです。

しかし、そのように子供を伸ばしていくことは、さして難しいものではなく可能なのです。




ただ、難しいのは大人の方の問題です。

日本の子育ての概念の中には、そのように「子供自身に発育させる」という考え方が希薄で、「大人が介入することで子供の正しい姿を作り出す」という見方が非常に濃厚だからです。

ですので、まずはその先入観を乗り越える必要があります。



記憶に新しいところでは、北海道の森林で「しつけのため」と小学生を放置し遭難した事件がありましたね。

このケースに見られる、”子育て観”がまさにこれまでの日本の子育ての典型なのです。

あれはたまたま遭難という事件になってしまいましたが、多くの人があのケースと同じ文脈での子育てをしています。


大人の考える「子供のあるべき姿」に従わせるべく、そこに大人が介入をするのです。
その介入の仕方は「否定」というかたちです。
子供が従わなければこの「否定」のかたちをより強めていきます。

これが日本の子育ての典型です。


多くの人にとって、これが「子育て」としての先入観になっています。

また、それがいわゆるところの「しつけ」の子育ての構造でもあります。
このあたりのことは「しつけ」についての過去記事でも述べました。


この子育て観の本質は「否定」の羅列であるところです。

現代の大人が「自己肯定感の低さ」で悩んでいるのも、この子育て観と無縁ではないと僕は強く感じます。もっとうがった見方をすると、「肯定で人と関わることを知らず、否定ばかりが多くなってしまう日本人の対人関係のあり方」にまでつながっているかもしれません。



さて、この先入観にとらわれている内は、自然自然と”大人が介入することで正しい姿を作り出そうとする”「上手い保育」を目指してしまうことでしょう。


ですから、保育士はひとつ大変重要な事実を理解しておかなければなりません。
それは、

「子供は、子供自身で育つ力を持っている」

ということです。

これが「子供の尊重」のひとつの大切なあり方です。


「どうせ子供はわからない」
「できないに決まっている」

そのような軽視した見方をしてしまうと、管理・支配のレベルでの子供への関わりに留まってしまいます。

そして、大人がその思いで子供にアプローチしていくと、子供はその管理や支配をされることが当たり前となって、「自分自身で育つ力」、「大人にさせられなくても、それらのものごとに自分から前向きに取り組むこと」などを、停止してしまいます。

すると、その管理や支配で関わる人にとっては、永遠に子供は「どうせわからない」「自分からはできない」存在にしか映りません。


なので、
「子供は、子供自身で育つ力を持っている」
このことを、頭でも実感でも保育士は理解していなければならないでしょう。

それをするのは、先輩保育士の役目です。

多くの新人保育士が、程度の差こそあれ「大人が介入して子供の姿を作り出すことが保育」という認識を持っています。


それを、支配しないでも子供が自分から大人の望ましいと考える姿に育ってくれることを実践で示して、
「子供は、子供自身で育つ力を持っている」ことを実感させていかなければなりません。

またそれが、「たまたま」とか、「その保育士が特別優れたパーソナリティを持っていた」から、「子供がいい子(安定した子)たちだった」からそうなったのだと理解させてしまうのではなく、「保育の力」によってその姿が導き出せたことを認識させる必要があるでしょう。


それを明確にしておかないと、「楽な道」=「管理や支配」に安住してしまうからです。




では、その管理や支配せずとも子供を伸ばしていく手段はどうするのでしょうか?

それが「信頼関係」を明確に意識した保育です。


つづく。

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● COMMENT ●

2児の母です。

日々色々気になりますが、「20歳になった時に、犯罪を犯さず、身の回りのことが出来て、仕事したり、勉強したり、結婚相手を見つけたりする気持ちがあったらいいな。」と言う視点で見ると、大抵どうでも良いことだなと思います。
最近では、現在小学2年生のお姉ちゃんは、1歳で熱性けいれんをして予後1か月悪かったので(その後正常発達)ストレッチをする習い事を続けてくれたり、外遊びしてくれたらいいな、と私が無意識に思っていましたが、結局その判断も子供に引き渡しました。
今は、二人分の補助学習費を月額で決めて、その範囲内で習い事やワークブックなど好きなものを買っていいよ~と言うことにしました。
一緒に会計簿?を付けて、冬に合宿行きたいなら幾らだよ~、何か月貯めたら行けるかな、とか計算のお手伝いをしたり、この習い事は発表会があるから、習うなら何月までは続けた方が良さそうだけどどうする?くらいは、調べて話しています。
結局、ダンスを辞めましたが、スイミングを始めたし、私が体操していれば一緒にするし、休日に山に行けば一緒についてくる。
してほしいと思うなら、自分が楽しそうにしてるのを見せるくらいかなあと思っています。
私自身の経験では、小学生にもなると、やりたいことは自分で決められてたな、と思うので。
アウトプットを求めないと、本当に楽です。

いい保育とうまい保育についていつも興味深く拝見させてもらっています。
私は保育歴は浅く、まだまだ勉強の日々です。このブログを拝見しながら、自分の悩みの答えを確認できたような思いです。
これからも保育についての考えを提示していただけたらと思います。


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