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2024-04

いじめについて考える  Vol.3  - 2012.08.27 Mon

前回からの続き、「いじめにはいじめられる方にも問題があるのだ」という意見のもうひとつの方向性について考えてみたいと思います。

それは、「いじめはいじめられる方にも原因になることがあるのだから、いじめの対象にならないような子供に育てなければならない」という考え方です。

この意見のいくつかはさらに、「もしいじめられたとしても、それをはねのけるだけの力のある子にしよう」という文脈で続くものや、「集団にうまく適応し、いじめの対象にならないような協調性をもたせるのだ」という意味合いで語られるものなどがあるようです。








僕はどちらの考え方でもいじめはなくならないと思う。

後者の「集団にうまく適応し~~」は結局のところ、Vol.2でみたいじめの原因ともなる環境・考え方に子供を当てはめているだけのようです。

大人が子供に対して、集団に適応することを刷り込んでいけば、子供はその考え方をよろしく学習して自分たちの世界で、集団にうまく適応しないものを一等低いものとみなしていじめやあなどりの対象として扱うことを覚える可能性が濃厚にできるのではないでしょうか。


前者の考え方、「もしいじめられたとしても、それをはねのけるだけの力のある子にしよう」は現にいま教育改革を提唱しているひとの文言のなかにも見受けられます。

この意見を言う人は、おそらくご自身がとっても強い人なのだと思います。
もしかすると、いじめられている子を自分の身を呈してまでまもるような強さと正義感に溢れた人なのかもしれません。

でも、全ての人がその半分も強いとは限りません。
いくら精神的肉体的に鍛えたとしても、全ての人がそうなれるものではないのです。

いじめの対象になる子にはもともとハンデキャップを負った子や、発達障がいを持った子供たちもいます。
そういう子はそれを治療したり、克服しようとしたり、乗り越えようとしたり言われるまでもなく、一生懸命取り組んでいます。
そういう子達にも、「いじめられることは君にも原因があるのだから、もっと強くなりなさい」と言うのだろうか?

「もしいじめられたとしても、それをはねのけるだけの力のある子にしよう」この考え方は、個々の個性を考慮しない、とても狭い範囲にしか適応できない一面的な意見でしかないのです。

よしんば、あるクラスの子供が全員そうやって鍛えられて強くなることができる子供ばかりだったとしても、結局は全くみんなが同等の能力や強さを持っているわけではないのだから、その中で序列・ヒエラルキーというものができて、やはりそこにいじめを志向する人間がいたらそのヒエラルキーの中でいじめはおこなわれるでしょう。

自衛隊のなかでもひどいいじめが行われているという話はよく耳にします。
実際、僕も自衛隊にいた友人からそういった話を聞きました。

自衛隊にはいる人は、世間一般からすれば精神的にも肉体的にもずいぶんと強い人たちだろうと思います。少なくとも僕なんかよりもよっぽどでしょう。

その強い人たちがたくさんいるなかですら、いじめがあるのです。「いじめをはねのける強さをもちなさい」という考え方は、さして有効でないと思わざるをえません。

また、「強くする」「鍛える」「はねのける力をもたせる」というのは具体的にはどうすればいいのだろうか。
口で言うのはたやすいけれども、多種多様な人間がいるなかでそれを達成することは大変難しいと思います。

そして、実際のところ本当に「いじめてやろう」という悪意をもった人間が徒党を組んでいじめを行った場合、個人の強さなどというものとは無関係にいじめは行えます。

悪質ないじめに対しては、個人の精神的肉体的強さなどというものは何ほどにもならないのです。

いまでは、ネットの掲示板やメールなどを使ったいじめまで子供たちの中で行われるようになっています。

そういう中でどんなに個人的強さをもって立ち向かったところで、「孤立」「疎外」という状況をどうにかすることは、そのいじめられている当人にはどうすることもできません。

大人が、いじめの解決を「個人の強さ」に帰結させるのは、なんの解決の手助けもしないことと同様になってしまいます。

もし、今現在いじめられている子に、「あなたはいじめられないだけの強さを持ちたいですか?」と聞けば多くの人が「はい」と答えるでしょう。
でも心から望んでも、持てないからこそ苦しんでいるのです。

なので僕は、この、「もしいじめられたとしても、それをはねのけるだけの力のある子にしよう」という考え方は、自分自身がとても強い人やいじめられたことのない人、一面的にしか物の見えない人の無責任な放言にすぎないと感じられて仕方がありません。


蛇足ながらさらに言えば、もしその考え方にのっとって子供をいじめをはねのけるだけの力のある子供にするという教育を実施するようになったら、今度はその「子供を強くする」という美名のもとに子供を精神的に威圧したり、体罰を振るったりする人が出てくるでしょう。

それ自体も立派ないじめですが、そういった上から抑圧的に関わる環境で子供が育てば、さらに子供をいじめ行為に駆り立てるように思われます。
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● COMMENT ●

No title

当時を振り返って
子供心に、はねのけるなんてできなかったです。
実際消えたくなったり死にたくなったり・・・無視やガイマにされるだけでも辛いものです。
人を傷つけるのにナイフも武器もいらない
いじめられない「強さ?」
それが「何か」わかったらイジメは、なくなるのかな。

No title

強さ。
立ち向かうだけが強さじゃないような気がしています。
現状の教育現場をニュース等で見ると「逃げる」選択肢も含めておいた方がいいように思います。
学校を休んだり、しばらくその場から離れる事もありではと思います。
勉強は本人のやる気次第でいつでも勉強できます。
勉強の進み具合、落ちこぼれを考えるよりも、いじめで受ける精神的ダメージ、後のいじめられた事のフラッシュバックそっちが怖いと思っています。

ただただ、今の教育現場が向上し、先生方の隠蔽体質や事なかれ主義が無くなる事を祈らざるを得ません。
今の子供たちが少しでも安心して学校生活、幼稚園生活を楽しく送れる事ができるよう願っています。

集団ありき

六年生の娘の学校はイジメが流行っていましたがイジメていた子の中心はスポ少の集団でした。娘のいたスポ少内でもイジメがありました。やはり集団だとイジメに繋がってしまうんですね。

コットン100%さん

>現状の教育現場をニュース等で見ると「逃げる」選択肢も含めておいた方がいいように思います。
学校を休んだり、しばらくその場から離れる事もありではと思います。

僕も全くそう思います。
膨大なストレスに耐えながら、子供がしなければならないことなどなにもないはずです。
そして、本当に悪質ないじめにあってしまったら、子供個人の力や学校の仲裁など関係なくそれをかいくぐって行われてしまいます。

いじめに限りませんが、悪意のある人が狡猾な手段や知識をもって対峙してきたら、善良な人一般の人はかなうものではありません。

「逃げる」ことが最良の選択肢であることもあるでしょう。



なのですが、これには親の価値観というものがネックになります。

親が暗黙のうちにでも、学校に行くことや学校を卒業すること、さらにはその上の学校に行くことなどを期待していたら、子供はなんとかそれに沿おうとしてしまうので、そういう選択肢を選べなかったり、そもそもいじめられていることを親にも隠したりしてしまいます。

子供の生育にとってなにが大切なのか、親自身もきちんと見極めていなければならないことを、そのことは教えてくれます。

いじめそのものではありませんが、いじめを取り巻く問題としてこの親の価値観というのは実は大きなウェイトを占めているようです。

サンテグジュペリの星の王子様が「本当に大切なものは失ってからしか気づけないんだよ」と言っていたのを思い出させます。



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