事例で見る難しい子の対応 vol.7 質問への回答(6) - 2018.08.14 Tue
僕は保育カウンセリングという手法の研修をすることがあります。
単に講義をするのではなく、僕自身が保育環境の中に入って子供たちと接し、特に対応の難しい子への関わり方を実地を持って示すことで、より実践的な保育を伝えるものです。また、保育者の疑問や悩みを聴き取りながら、それに寄り添い、保育者個々が保育の手応えを感じられるサポートをします。
そういう中で、僕が受容的肯定的な雰囲気を持って子供たちの中に入っていくと、大人に肯定的に受け止めて欲しい欲求を抱えた子がやってきます。
可愛らしく関わってくる子。
遊びの中で関わってくる子。
単に甘えとして出す子。
大人がしんどくなるほど強い甘えで出す子。
要求をぶつけることで出す子。
もっと明確に、嫌がる行動で関わってくる子。
この内、最後の3つは対人関係モデルの問題となっている場合があります。
また、これらは年齢があがればあがるほど、その問題の根っこは根深くなります。
実際のケースですと、
園庭で僕がオニになって追いかけっこをしているとき、わざわざ蹴ったり、叩いたり、砂を掛けてきます。
その育ちの中で他者への信頼感が形成されていて、他者と無理なく関わることができるようになっている子は、「こっちだよ~」と呼びかけてきて、その追いかけっこの枠組みの中で僕と関わろうとします。
素直な子や幼い子だと、もっとストレートに「わたしのことマテマテ(おいかけて)してー」と言ってきます。
しかし、他者とどう関わればいいかわからないという対人関係のモデルに問題が発展している子は、そのあたりの区別がつかないので、ネガティブ行動になってしまいます。
それが、蹴ったり、叩いたり、砂を掛けるといった、される側としては嫌としか思えない行動です。
他のシーンでは、わざとつねってきたり、僕がかけているメガネを取ろうとするといった関わりがよくあります。
これらが、その子が持っている(持たされている)不適切な対人関係モデルから導き出されたネガティブ行動です。
この不適切な関わり方を、注意や叱責といった規範意識からの否定ではなく、その子への援助として寄り添った姿勢から、より適切なものへと変えていくことがこのとき保育士に与えられた課題です。
子供はひとりひとりが違うので、どのように対応したらそれが改善されるか絶対の正解があるわけではありません。
なかには、その子供の側の文脈に乗ってあげて、それにつきあう中で信頼関係をつちかい、そこからだんだんと適正化していけることもあるでしょう。
しかし、それでは深刻なケースほど解決しません。
なぜなら、それは保育士が子供に合わせて「頑張れる」人であるから、それが受けられるのです。通常の他の大人(もっとも身近なところでは親)は、そういったネガティブな出し方をこころよく受けられるわけではありません。そしてそれは当然です。もし、そこで親なり周囲の大人なりが、頑張ってその子の行動を受けていくようになれば、頑張って受けることが限界になったときに、その子育てはどうにもならないところにはまってしまいます。
例えば、1~2歳の子のネガティブな出し方は大人が頑張れば受けることができます。
しかし、その行動のモデルを持ったままその子が5歳になったとき、受けられる大人はいません。
これは保育士だってそうです。
ある程度年齢があがり、力や脅し、子供だましで動かせなくなったとき、その子育てはどうにもならなくなり、無視や疎外、怒り叱り続けるしかなくなってしまいます。
ですから、「子供のネガティブ行動に頑張って応えていくこと」は、長期的に見た場合その子のためにはなっていないのです。(こういった対応は特に家庭での子育てに多く見られる)
◆
そこで、その子の持っているネガティブな対人関係モデルを、互いにムリのないものに習得させ直すわけです。
具体的には、その子との信頼関係の上で、「私はその関わり方はイヤ!」と明示し、「こうならいいよ」というのを伝え、その「こうならいいよ」の関わりからその子が満足できる状況を繰り返し引き出していくことです。
僕のメガネを取っていこうとする子に対しては、「メガネ取られたらほんっとに困る!」と感情を込めて伝えます。
ここで、包括的受容の精神を思い出して下さい。
その気持ちを持って、「そんなことしなくても、僕はあなたのことちゃんとみているから大丈夫だよ」と伝え、ハグしたり、その子が遊びたいことを一緒に楽しむようにします。
何度も繰り返しますが、これはこういった行動だけなぞっても実効性はありません。
その子との間に信頼関係が築かれていなければ、その言葉も行動も子供の心に響きません。
なので、その場になってのアプローチではなく、普段から肯定、共感、見守りの関わりが大切なのです。
追いかけっこをしてくるときに、関わりが欲しくて叩いてくる子や、砂をかけてくる子に、その行動を我慢するだけ、受け入れるだけであれば、その子はずっと他者と関わるときに嫌がることをし続けてしまいます。
その行動では「お互いに気持ちよく関われないんだよ」というのを、保育士という対人関係の練習台が応えていき、適切な形に変えます。
(追いかけっこの中で)「砂投げるのはやめて!それは本当にイヤだから」
その素直で正直な大人の気持ちを込めて、明確に伝えます。
その上で、「こうすればいいんだよ」というのを示していきます。
例えばですが、「そういうときは、こっちだよ~っていってごらん」などと伝え、その関わりを出させて、その関わりを出したときは思いっきり楽しく、肯定的、受容的に笑顔で関わり返します。
◆
ここに発生するのがメリハリです。
ネガティブな関わり方を出したときは、大人はきっぱりNO。
しかし、お互いに心地よい関わりを出したときは、大人は気持ちよく自分に応えてくれる。
この実感、落差を子供自身で経験させます。
子供が良い関わり方をしても、さして大人のいい反応が得られないのであれば、子供のネガティブな関わり方は変わりません。
規範意識から子供に関わる人には、このメリハリが失われます。
ネガティブなときに強いNOがあるばかりで、ポジティブなときに良い反応が見えないので、子供には自律的にどうすればいいのかわかりにくいのです。
そして、前にも伝えていますが大切なことなので何度も言います。
大人からの良い関わりは、子供に要求されてから出したのでは遅いのです。
意識的に、普段から大人の方から良い関わりを出していく必要があります。
「大人の方から」つまり積極性です。
これに気がつかず、後手後手の対応しかできないと、子供の良い姿はでてきません。
大人から肯定的・受容的な・楽しい関わりをしていくのです。
だから、大人から子供をくすぐりに行き、大人から子供を追いかけっこし、大人から共感し、大人からあなたのことを大切に思っていますよと伝えていく必要があるのです。
とりあえず、このシリーズはここで一旦区切り。
ブログで書いて伝えるにはちょっと込み入ったものになってしまったからね。
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子供が産まれてからおとーちゃんのブログを全部読みました。
おかげさまで、可愛い子に育ってるのではないかなーと思ってます(親バカですが)
もし機会があれば、おとーちゃんのお泊まり保育の考え方について教えて下さい。
来年、年長でお泊まり保育です。
息子は嫌がってます。
幼児にそんなハードな試練って必要ですか?
過保護でしょうか。